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【諸永裕司のPFASウオッチ】岐阜基地問題で見えた防衛省の閉鎖体質…情報公開請求を放置し、開示まで1年超も「当たり前」

決して、汚染源と認めさせない。その意向が強くにじんでいた。

先週3回にわたって報じた、航空自衛隊・岐阜基地でのPFAS汚染をめぐる対応のことだ。

防衛省は、基地内で検出された数値の公表を拒んだうえ、各務原市が要望書に記した「土壌調査」から「土壌」の文字を削るように求めていた。市が作成した汚染等高線図もお蔵入りとなった。

土壌を調べて汚染源だと証明されれば、地下水を通じて市民の飲み水を汚した責任を問われ、浄化費用の負担も迫られる。また、さらなる地下水汚染を防ぐために土壌を入れ替えるなどの対策も避けられなくなるだろう。

そうした事態をなんとか免れようと考えたのではないか。

「自衛隊基地の次は米軍基地の調査も」という展開を忌避?

発がん性が指摘される有機フッ素化合物のPFASによる汚染が全国各地で確認されるなか、沖縄や東京・多摩地区では、米軍の嘉手納基地や横田基地が汚染源であることを示す客観的なデータがある。にもかかわらず、米軍は立ち入り検査を拒んだまま汚染の責任は認めず、その見解を防衛省も受け入れている。

米軍嘉手納基地 ©Google

自衛隊基地内で土壌調査が行われれば、「米軍基地への立ち入り調査も」という声が高まりかねない。そうした展開も考慮したうえで妨害工作に出たのではないか、とある政府関係者はみる。

汚染源の特定につながる動きを封じようとする態度は、取材への対応にも表れていた。

象徴的なのは、情報開示請求に対する常軌を逸した手続きだった。

情報公開請求を「放置」した防衛省

私が最初に請求したのは昨年10月12日。PFAS汚染をめぐり「浜松および岐阜を含む航空自衛隊基地の井戸(専用水道)での水質検査結果」を求めた。

さらに11月8日には、岐阜基地に限定して「①水質検査結果、②水質検査に至る経緯、③結果の通知、報告など、がわかる一切の記録・文書(メール含む)」の開示も求めた。

ところが、防衛省は請求そのものを放置していた。
そう知ったのは、12月半ばになって防衛省情報公開室の担当者から受けた電話だった。

「10月12日と11月8日の日付がある開示請求文書を受理していませんでした。受付できるかどうか、担当課に回したままになっていました。申し訳ありませんが、どちらも受理していないので、きょう12月14日にまとめて受付とさせていただいてよろしいでしょうか」

耳を疑った。

防衛省(撮影:スローニュース)

法律の規定をないがしろにし、最長2カ月処理せず

行政手続法では「行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず」と規定している。つまり、開示請求書が防衛省の情報公開室に届いた時点で受け付け、その後、作業にとりかかることが求められている。

受け付けしないことはありえない。だが、ありえないことが起きていた。

開示請求書(コピー)の欄外に「請求受付番号」が手書きされて送られてきた(撮影:諸永裕司)

さらに、請求を受けてから1カ月後には開示するかどうかの決定を下すことになっている。決定に時間がかかる場合には「開示延長決定」をしなければならない。

にもかかわらず、防衛省は10月12日の請求も11月8日の請求も放置したまま、1〜2カ月たってから一括して受け付けることにした、というのだ。しかも、受理と受付という異なる用語を持ち出して、文書は届いているが手続きは始めていないと説明し、過ちをないことにしようとしていた。

説明によると、11月14日に地方協力局環境政策課、航空幕僚監部、情報公開室の各担当者が顔を合わせて対応を協議したという。つまり、それまで1カ月放っておき、協議してからさらに1カ月処理を怠っていたことになる。

「開示まで1~2年かかります」

抗議は受け入れられず、今年1月中旬に開示決定が出た。手元に届いたのは、各務原基地と浜松基地で行われた水質検査結果の6枚。検査をするに至った経緯などを記した文書は含まれていなかった。

PFOA・PFOSの濃度が国の目標値を超えていたことを示す検査結果

公文書管理法は、公文書を「国民共有の知的資源」と位置づけたうえで、こう記している。

<行政機関の職員は(略)経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう(略)文書を作成しなければならない> (第2章 第4条)

なお、在日米軍基地に関連する5件の請求についてはいずれも延長が決まり、「米軍との調整が必要」などとして、開示までの期間は「1〜2年」とされた。

情報公開に対する各省の取り組みについてまとめた総務省の調査がある。2020年度、「開示決定までに1年超を要した件数」がもっとも多かったのは防衛省で169件、決定までの期間は最長で1134日だった。次に多い外務省(76件)の2倍以上だった。さらに2021年度には284件、1970日と、防衛省がまたも突出していた。

安全保障など機微にふれる案件が含まれるため検討に時間がかかるとされるものの、すべてがそうとは限らない。それは、岐阜基地内の井戸でのPFAS濃度の「隠蔽」が示している。

<国の防衛の取組は、国民の御理解と御協力を得るとともに、国際社会に対する高い透明性をもって進めていくことがもっとも重要です>

最新の防衛白書に書かれた文章が白々しい。

現在配信中のスローニュースでは、航空自衛隊・岐阜基地が、基地内の井戸水から目標値を超える値を検出しながら公表せず、国への報告もしていなかったこと、そして防衛省側がさまざまな工作を繰り広げていたことを独自の調査で伝えている。

諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
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