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「キャリアは複数の柱を持て」記者×難民支援×危機管理広報の掛け算でつくる私なりの専門性

社会をより良くしたいという思いはずっと変わっていない──。新聞記者、難民支援の仕事を経験した小林洋子さん(38)が次に選んだのは、企業の危機管理広報の世界でした。

一見、異なる業界を歩いているように見える小林さんですが、本人は「アプローチが違うだけで、仕事を通じて実現したいことの根本は変わらない」と話します。

後編では、小林さんが国際NGOから危機管理広報へ転身した背景や記者の経験を広報に活かす際のポイントに迫りながら、キャリアの掛け算を通じた「専門性」の磨き方について考えます。


聞き手 石井大智

取材に応じる小林洋子さん/スローニュース撮影

「単に海外に飛び込めばよいわけではない」

──NGOでの経験を通じてキャリア観は変わりましたか。

小林:
難民支援に携わって実感したのは、専門性を磨くことの大切さです。欧米の国際NGOや国連職員を間近で見る中で、海外に単純に飛び込めばよいわけではなく、どの分野で専門性を発揮するかが問われていると強く感じました。

専門性は修士号などの学位と職務経歴を合わせて評価されるものです。法律や会計、建築や教育分野など人によって様々なバックグラウンドがありますが、記者の仕事を通して培うことができる「伝える」というスキルもれっきとした専門性だと国際的には考えられています。

実際、国際機関やNGOでも「コミュニケーション・オフィサー」という職種があるくらいですから。この「コミュニケーション」の中には、広報戦略の策定やメディアリレーション、特集記事やイベントの企画など情報発信に関する様々な職務があります。

私の場合は、このまま国際協力の世界でプログラムオフィサーやコーディネーターとしてキャリアアップしていくかどうか悩みました。

しかし、最終的にはキャリアの中で一番長い新聞記者の経験を活かせる場所で働くことに決めました。その方が自分自身にとっても関わる人たちにとっても良いと考えたからです。メディア側にいた経験を活かしつつ、コミュニケーションの分野でスキルを磨ける仕事に就くことにしました。

メディアの外の世界を知り、自らのキャリア構築の軸を再考したという/スローニュース撮影

情報開示でより良い社会をつくる

──そこで関心を持ったのが「危機管理広報」という領域だったわけですね。

小林:
その通りです。当初は事業会社の広報も考えたのですが、私の場合は、色んな分野に関心や好奇心があるタイプ。そのため、複数の業界に関わることができる仕事が良いと考えました。

私が勤務するエイレックスでは危機管理広報に強みを持ち、クライアント企業の不祥事対応をサポートしています。「企業の不祥事対応」と聞くと、企業側に立って批判回避を目指すものだと思われがちです。

しかしながら、会社が理念として掲げるのは、「情報開示を通じて、社会と企業の相互理解を深めること」。起きた事象を社会にどう伝えていくかという点で、記者の仕事と共通するものがあると思います。

私は記者時代、調査報道で組織の問題を掘り起こしたいと思っていました。思い出深いのは、毎日新聞秋田支局にいた記者2年目の時の仕事。秋田県の旧角館町(現・仙北市)で2003年~2005年分の所得税確定申告書が住民の知らぬ間に税務署に提出されていた問題を一面と社会面でスクープしました。

この報道がきっかけとなり、市は調査チームを立ち上げ、副市長が引責辞任、市長は減給処分、職員26人が処分されるという大きな反響につながりました。このスクープでは、住民、支援団体、市、県と多様なステークホルダーを1人で追い続け、情報を検証しながら報じる責任と重みを痛感しました。同時に、メディアには世の中を動かし、問題意識を喚起する力があると実感しました。

小林さんは「調査報道の重要性は今後も変わらない」と話している

メディアによる調査報道は重要ですし、その価値が廃れることは今後もないと思います。一方で、国や自治体、企業側は、自己開示や透明性が求められる時代です。

エイレックスが目指すのは、問題が起きた時に隠すのではなく、適切な情報開示を促進させて、公正で健全な社会の実現につなげること。それができれば、社会問題に向き合いながら、コミュニケーションの分野で専門性を磨けると思いました。それで2度目の転職を決意しました。

この先は会員限定です。似て非なる記者と広報の仕事の違いや、広報パーソンを目指す人のためのおすすめの資格や勉強法について深掘りします。

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