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【スクープ】補助金の不正受給を内部告発したら、社内で突然「告発者探し」が始まった!北陸農政局は何をしたのか

取材・執筆 フロントラインプレス

勇気を出して内部告発の声を上げたのに、その内容が不正に手を染めている当事者に筒抜けになったとしたら。   

山川健太郎さん(仮名)は、勤め先の企業による補助金約2000万円の不正受給を、農林水産省の出先機関・北陸農政局に告発(公益通報)した。ところが、農政局のずさんな対応のために企業側に内部告発の内容が伝わっていたことがフロントラインプレスの取材で明らかになった。

公益通報者保護法の趣旨に反する対応が、なぜ行われたのか。


補助金の不正受給を告発した経緯

石川県の民間企業に勤める山川さんが「告発状」を北陸農政局に送ったのは、2021年4月5日の月曜日だった。

当時の日本はまだ新型コロナウイルスが猛威を振るっている真っ最中。この日はちょうど、宮城県、大阪府、兵庫県にまん延防止等重点措置が発令された日でもある。コロナ禍で“自粛”が続くなか、山川さんは約1カ月を費やして告発状を作成したという。

公益通報者保護制度は、所管の消費者庁によって詳細なウェブページが作られている。山川さんはそれだけでなく、公益通報に関する専門書を買い込んで精読。その末に書き上げた告発状は約9500字、A4判で8ページにも及び、告発内容は詳細を極めた。   

山川さんが送った告発状(撮影・加工:フロントラインプレス)

山川さんの勤務先企業は当時、畜産業者と取引があり、その業者らは農水省に補助金を申請していた。対象は養豚用の浄化槽設置で、総事業費は約3400万円。環境基準に適合した事業を行えば、事業費の相当部分が補助の対象になる。

ところが、この事業に関する資料を見た山川さんは重大なことに気づいたという。   

「施設に設計の誤りがあったのです。その結果、浄化槽から放流した水に含まれる規制物質は、水質汚濁防止法の基準に反してしまう。設備設計施工において監理者も不在。そもそも契約書や見積書に不備がありました。こうした事業に補助金を出すのは、補助金適正化法にも反します」   

「明らかな不正だ」匿名での告発

その時点で補助金の申請は終わっていた。石川県や北陸農政局のチェックでも不備は見抜かれず、約2000万円の補助金交付も決まった。「税金の使われ方として問題がある。明らかな不正だ」と考えた山川さんは補助金の交付をストップさせるためには、内部告発しかないとの思いを強めていく。  

山川さんは焦っていたという。補助金が振り込まれるまで残された日は多くなかったからだ。約3400万円の総事業費のうち、補助金は約2000万円で、その負担割合は国が約4割、県が1割強。市町村も1割近い数字だ。小さな額ではない。

8ページの告発状だけでは信頼されないかもしれないと思い、山川さんは20点を超す関連資料も揃えた。各種見積書、全体工程表、構造計算書といった“ど真ん中”の書類も資料証拠として同封。それらをまとめて書留で郵送する一方、送り主の住所や氏名は空欄にした。“身バレ”を恐れたからである。   

告発状を送った際の控え(撮影・加工:フロントラインプレス)

しかし、告発状の効果はなかったようで、やがて所定の金額が交付された。   

山川さんはがっくりしたが、普通なら「内部告発も虚しく……」で終わっていたかもしれない。   

告発者探しが社内で始まった

告発状を送ってから1カ月後の2021年5月、思わぬ動きがあった。  

石川県の担当者から山川さんの会社に問い合わせがあったのだ。そして、補助金の申請手続きで中心的な役割を担った社員が県庁に呼び出され、告発状に書かれた内容についての回答を求められたという。その場で社員は、何者かによる内部告発があったようだと知る。その話は当然、社長の耳にも届いた。  

内部告発者は誰か。  

山川さんに疑いの目が向けられた。山川さんは以前、この補助金事業について意見を述べたことがあった。事業の担当者になってくれと言われた際にも、問題点を指摘したという。  

「なぜ、担当になるのを拒んだか、ですか? 制度設計が甘かったし、技術的な分析項目の詰めもできていなかったんです。会社の利益になるとはいえ、補助金事業に申請するのは不適切だと思いました」  

このことを覚えていた社長はすかさず、山川さんを呼んだ。そして、周囲に聞こえるように言い放った。  

「卑怯なことをするやつは辞めてもらうからな」  

社長はそれ以上の説明をしないものの、明らかな敵意を含んでいたという。

(イメージ)

  その後、今度は石川県の担当者が直接、会社に足を運んできた。さらなる回答を求めてきたのだ。会社側は「指摘事項に問題はない」「水質汚濁防止法の基準値を満たしていないのはサンプリングの値だったから」などと回答し、疑惑を否定。県の調査もそれ以上を実施せず、不正にはなんのおとがめもなかった。結局、残ったのは、山川さんが『裏切り者』ではないか、という疑いの目だけだった。

 そして月日が経ち、山川さんは驚愕の新事実を知ることになる。

告発を受けた北陸農政局、そして石川県はどのような判断をしたのか。告発はガイドラインに従って取り扱われたのか。追及していきます。現在配信中のスローニュースの記事では、告発者を危機にさらす行政側の対応を明らかにしている。

■公益通報者保護法
公益通報者保護法は2004年に成立し、2006年に施行された。2022年からは改正法が施行されている。同年の改正では、不正を告発した「公益通報者」を保護するための制度が強化された。目玉の1つは、通報者探しの禁止。従業員300人超の全事業者(政府機関や自治体などを含む)に「通報者の探索を行うことを防ぐための措置」を整備するよう義務付け。事業者側が通報者探しなどをした場合、事業者は懲戒処分などの措置を取らねばならない。これに違反した事業者は、同法を所管する消費者庁の指導対象となり、場合によっては刑事告発も受ける。行政や報道機関など外部への通報も、指導や刑事告発の対象。また公益通報の条件も緩和され、名前などを記した書面を出す場合は、真実相当性までは求めないこととなった。