内部告発を企業側に漏らした北陸農政局と石川県、なぜ「告発者を危険にさらした」のか
取材・執筆 フロントラインプレス
内部告発をしたら、社内で告発者探しが始まってしまった。なぜそんなことが起きたのか。
公益通報者(内部告発者)を守るために作られた公益通報者保護法は2004年に成立した。来年で丸20年になる。しかし、告発者を守る意識が企業や官公庁に浸透したかと言えば、全く違う。大きなニュースになることはないが、意を決して内部告発者となった者が何らかの経緯で身元を特定されてしまう“身バレ”もあちこちで起きていると思われる。
石川県の山川健太郎さん(仮名)のケースもそんな1つだ。
「自分の勤務する会社が関連法規に反して農林水産省の補助金を得ようとしている」として、北陸農政局に公益通報した山川さんは告発後、社長から「卑怯なことをするやつは辞めてもらうからな」と言われた。その様子は前回お伝えした通りだ。
しかし、なぜ、自分が疑われたのか。社内の冷ややかな空気を感じるようになっていた山川さんは、ある日、石川県庁が作成した文書を偶然、手に入れ、驚愕することになる。
県が作成した「取扱注意」の文書の中身
山川さんが入手した文書は、A4判で数枚のお役所文書だ。専門的な用語も見える。「環境」「水質」「廃水処理」などに関する文書だという想定はつくものの、当事者以外にはどんな意味を持つ文書なのかも即座には分からない。
文書には「●●●●の施設整備に係る告発内容について」というタイトルが付いていた(「●●」は企業名。原文は実名)。文書の右上には「取扱注意」の印も押してある。
冒頭は「Ⅰ R3.4.5の告発状に記載されている指摘事項」という一文で始まっていた。それに続き、「1. 設計上の放流水の水質が水質汚濁防止法に定められている基準値(日間平均)を満たしていない。また処理方法が不適である(希釈で対応)」「2.施設の設計に誤りがある」「3. 設備設計施工において監理者が不在である」などの見出しが並ぶ。そして、各見出しの次には、それぞれの項目のポイントが簡潔にまとめられていた。
文書の内容は、明らかに山川さんが北陸農政局に送った「告発状」と同一だ。北陸農政局はあの告発状の取り扱いを石川県に丸投げし、石川県の担当者はこの「取扱注意」の文書を示して会社に調査に来たのかもしれない。そうであれば、「卑怯なことをするやつは辞めてもらう」という言葉を社長が発した理由も合点がいく。しかし、そもそも、あの告発状は公益通報であり、北陸農政局はみだりに外部に持ち出してはならないはずだ。
山川さんは、そんなことを思ったという。逆に言えば、公益通報者を何よりも守らなければならない官公庁が告発情報を漏えいしたのではないかと疑ったのだ。