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「PFAS汚染は3年で解決できる」重要なのは国や企業トップの姿勢と訴える注目の発言

持続可能な社会へ向けて環境汚染や災害への対策を探る「地盤技術フォーラム2024」。東京・有明の東京ビックサイトで開かれた展示会には、3日間で1万人近くが足を運んだ。

PFASについての特別セミナーは満席となり、関心の高さをうかがわせた(撮影:諸永裕司 以下同)

そのなかに、立ち見の聴衆であふれる会場があった。

「国内外のPFAS対策最新技術について」と題された特別セミナー(9月18日)。汚染除去に向き合う一線の研究者6人が報告した。

企画に協力したのは、「PFAS対策技術コンソーシアム」。技術と海外の最新研究成果を国内の産業界や地方自治体などに普及させ、国内でPFAS対策技術を底上げしようと、3年前に設立された。

会長を務めるのは、国立研究開発法人・産業技術総合研究所の山下信義・上級主任研究員(エネルギー・環境領域)だ。

「ビジネスにならないからPFAS分析が盛り上がらない」

「きょうは(研究所のある)つくばから自転車で来ました」

冒頭、山下会長は意表をつくサイクルウェア姿で登場すると、汚染という深刻なイメージを振り払うかのように明るい声を響かせた。

「(PFAS汚染の除去は)海外では対応困難な環境問題ではない。最先端科学技術の登竜門」

だが、日本は大きく遅れており、なかでも分析技術が広がらなかった要因を、こう解き明かした。

「日本の環境分析というのは政府からお金が落ちてこないと事業が成り立たないんですね。ビジネスにならないから、分析事業者も設備投資を行わない。だから、国内でPFAS分析が盛り上がらなかった」

背景にあるのは国の姿勢だ。国内で規制対象としているのはPFOSとPFOA、それに新たに加わったPFHxS。それ以外には測定を求めていない。だが、3物質だけから発生源を解明できないのは「基礎の基礎レベル」(山下会長)。汚染された水や土壌の中にどの物質がどれくらいずつ含まれているか、組成を明らかにするには「多成分分析」が不可欠だという。

会場内で、「泡沫分離法」を紹介する清水建設のブース

高額すぎる費用「あなたが不発弾を取り出して、と言い合いしているような状況」

PFASは1万以上の種類があるとされる。産総研はこのうち39種類を一斉に分析できる技術(国際標準分析法ISO 21675)を開発し、すでに海外で使われている。

欧州では、ひとつの試料に含まれる21種類以上のPFASを調べる費用は250ユーロ(約4万円)。一方、国内では40万円かかる。桁違いに高いために測定が進まない、というのだ。

このため、3〜4千万円の測定機器を揃えて、自前で測定する大企業や地方自治体もあるが、発生源の特定が進んでいるとは言い難い。

こうした日本の現状を、山下会長は次のように表現した。

「家の裏庭に不発弾が埋められていたことがわかったのに、危険かどうかを毎日、議論している。『あなたが取り出してよ』『あなたがなんとかして』と言い合いをしているような状況です。不発弾なのだから掘り出して解体すればいい。その技術が私たちにはある。だから、すぐに取り組みしょう、というのが私たちの考えです」

ところが、汚染対策を阻んでいる要因のひとつが企業トップの姿勢だという。

「企業の現場はやりたがっても、経営者がストップをかける場合が多い。海外でやってないのに、なんで日本でやるのか、と」

「3年あれば、汚染を除去できる」

しかし、汚染の除去はもはや解決困難な課題ではなくなっている、と強調する。

たとえば、ベルギーでは、PFASを製造する化学メーカーとして汚染をもたらした3M社が「PFAS Crisis in 2021」というプロジェクトを立ち上げ、汚染された土地の浄化を進め、すでに資源として再利用できるまでに回復させたという。

「3年あれば、汚染を除去できるんです」

国内でもPFAS汚染除去技術へのニーズが高まるなか、コンソーシアムへの新規入会は増え続け、現在、68団体にのぼるという。ホームページには、環境測定会社のほか、PFASを製造・使用していたAGC(旧旭硝子)やクレハなどが名を連ね、静岡・清水工場を操業する三井・ケマーズフロロプロダクツも「手続き中」とある。

大成建設は、長期間にわたりメンテナンスフリーで拡散防止することができる「透過性地下水浄化壁工法」を展示した

また、コンソーシアムは「データベース」も作成し、会員向けとは別に一般でも閲覧できる情報を公開している。

山下会長は講演の最後に、最先端の一次情報に触れる重要性について言及した。スマホで検索する際は引用回数の多い論文を選ぶといいとアドバイスしたあと、こう力をこめた。

「PFASの最新情報はみなさんの手の中にあるんです」

コンソーシアムは今年12月、「PFAS 対策技術の将来」と題した国際講演会を開き、世界の最新の研究や対策技術を一般向けにも紹介するという。

日本のPFAS対策の「失われた15年」を取り戻し、問題解決へとつながる出口を照らそうとする試みが注目される。

現在配信中のスローニュースでは、汚染が広がった原因に経済産業省も深く関係していたことを示すメールを独自に入手し、担当者が話した内容を明らかにしたスクープを配信しています。


諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。スローニュースで『諸永裕司のPFASウオッチ』を毎週連載中。(https://slownews.com/m/mf238c15a2f9e
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