見出し画像

地震への初動や復旧の対応は「遅れた」のか、検証した報道【能登半島地震コンテンツまとめ⑦】

スローニュース 熊田安伸

元日に発生した「令和6年能登半島地震」に関するコンテンツ。「サービス・ジャーナリズム」「公共性」「可視化」などの観点から、メディアなどの発信で注目したものを、これまで6回にわたって取り上げました。

発災から1カ月が経過し、各メディアとも初期の対応や、復旧の進捗について検証する報道が見られました。今回はそうしたコンテンツを取り上げてまとめます。

復旧の遅れを可視化した朝日新聞の報道

水道や道路などの復旧が伝えられる今回の能登半島地震。では過去の災害と比べて実際に復旧に遅れが生じているのか。

朝日新聞が2016年の熊本地震と比較して、遅れを可視化する記事を発信しています。4つのグラフがありますが、そのうちの一つ、深刻な断水の戸数の増減についてこちらに引用します。赤色が能登半島地震、黄色が熊本地震です。

朝日新聞のサイトより

他にも「把握できた死者数」「避難者数の増減」「通行止め箇所の増減」といったデータで遅れの可視化をしているので、詳しくは記事の方を。背後にある「道路の深刻な損傷」「半島ゆえのアクセス・復旧の難しさ」「マンパワーの不足」といった課題を指摘しています。

比較する数字がそれで本当にいいのか

過去の災害と比較して、対応の遅れなどを検証するのは重要なことですが、比較する数字がそれでいいのかという疑問を覚えたのが、NHKのこちらの記事です。

地震発生から1か月後の水道の復旧状況は東日本大震災や阪神・淡路大震災では8割余り、熊本地震ではほぼ完了していました。

記事では研究者のまとめを引用してこちらの数字を盛り込んでいますが、テレビではクレジットをつけず、「東日本大震災では8割復旧」としていました。

しかし東日本大震災の被災地で、発災からわずか1カ月で8割が復旧していたという数字に違和感を覚える人は多いのではないでしょうか。

厚生労働省の健康局水道課が2013年にまとめた報告書には、こんな図が盛り込まれています。東日本大震災が発生した1カ月後、4月11日の断水の状況です。

厚生労働省の報告書より

ご覧のように、岩手・宮城・福島の沿岸被災地を中心に、まだ大規模な断水が続いていました。能登半島がすっぽり収まって余りある広大さです。実際、数字で比較すると、この時点での断水は34万戸余り。能登半島地震では約4万戸ですから、規模としては比べるべくもありません。

関東なども含めて広い範囲での断水の復旧を以て「8割」といっているのでしょうから、メディアが今回の被災地との比較に数字だけをそのまま使うのはいかがなものでしょうか。

今回の被災地で水道復旧が進んでいないのは事実だし、深刻な問題だとは思いますが、安易に数字にだけ飛びつき、単純化する報道は問題の解決に結びつくものではありません。過去の震災と比較するなら、同じような状況の現場を比較して論ずるべきではないでしょうか。

なぜ初動が遅れたのか、そもそもの計画を問う東京新聞

復旧の遅れの大きな要因として、そもそも被災地にアクセスするための道路の「啓開」の遅れが指摘されています。東日本大震災では、「くしの歯作戦」が評価されたのに、今回はなぜうまくいっていないのでしょうか。

東日本大震災のあと、国や県などの道路管理者が「道路啓開計画」を立案することになったのに、国土交通省・北陸地方整備局の管内では策定が進んでいなかった問題を東京新聞が取り上げています。

2007年の衆議院の災害対策特別委員会で能登半島での孤立リスクが議論された際、内閣府は「孤立集落対策に真剣に取り組んでおり、着実に成果が上がっている」として「能登半島地震でも地元がしっかり取り組み、大きな問題は出ていない」との認識を示したということですが、今回の災害をみて、どう顧みるのでしょうか。

「7つの都府県の大隊のうち重機を使ったのは2大隊だけ」とハフポスト

この記事の本旨はメインタイトルの方ではなく、副題のほうですね、と思いながら読んだのがこのハフポストの記事です。

道路啓開などに重要なのは、なんといっても重機。しかし調べたところ、珠洲市に入った7都府県の緊急消防援助隊のうち、2大隊はそもそも重機を運んできておらず、3大隊は使っていなかったというのです。

理由については、「必要ないと判断した」「現場に入れなかった」「要請がなかった」といったことが挙げられていますが、地元からは「重機がほしかった」との声も。

このシリーズの第5回でも「救助に来たヘリが実は活動していなかった」というニーズとのミスマッチの実例について書きましたが、今回もそういうことがあったのでしょうか。より詳しい検証が必要だと思います。

やはり被災地に必要なのは「情報基盤」

こうした被災地のニーズとのミスマッチなどからも分かるように、最も必要とされるのは、信頼できる情報を得られるプラットフォームのようなものではないでしょうか。

社会学者の西田亮介さんが、朝日新聞の「Re:Ron」に「偽情報対策も重要だが、そもそもの『トラストなニュース基盤』こそが必要だ」という論考を寄せています。

このシリーズでも何度も訴えていますが、命を救うというただその一点だけのためにも、「公共的な情報インフラ」は絶対に必要だと考えます。

スローニュースでは、被災地で取材するジャーナリストに役立つ『災害前線報道ハンドブック』を連載しています。発災時にまず何を取材するべきか、記者の配置はどうするのか、避難所や仮設住宅での着目点は、防災計画などの検証は。こうしたテクニックを実例をもとに連載しています。


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!