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Yahoo!の「災害マップ」は「命を救う公共メディア」に育つ可能性を示したか~能登半島地震でのコンテンツ表現は

スローニュース 熊田安伸

元日に発生した「令和6年能登半島地震」。いまだ被害の全容がわからず、安否が不明な方が大勢います。一刻も早い救助と、避難している人たちへの支援が必要です。

そこで今回は、メディア各社をはじめとしたこの地震に関するコンテンツの中から、「サービス・ジャーナリズム」「公共性」「可視化」などの観点から、特に目を引いたものを取り上げてみたいと思います。


「みんなで作る防災情報 災害マップ」がもたらすかもしれない新たな「公共」

Yahoo!が発信した「災害マップ」に目を見張りました。地図上に避難所の位置や、給水所の場所などが表示され、被災者にとって最も重要なライフラインの情報が、視覚的に分かりやすく発信されています。これも「サービス・ジャーナリズム」の一つですよね。しかもデータが大きいはずなのに、極めて動作が軽いインターフェースになっています。

LINEヤフー会長の川邊健太郎さんのXへのポストによると、社員たちが手分けして入力していったとのことです。(このあたりの事情、Yahoo!に取材できることになったで、詳しく分かったら追記します)

ライフライン情報というと、NHKはそれこそ発災後から「生活情報班」というチームを編成して、ありとあらゆるライフラインの情報を収集し、以下のサイトで発信してきました。こちらの方が情報量はかなり多いのですが、あまり存在を認知されていないですし、サイトの作りのせいか、具体的な情報にたどり付くまで何クリックも必要で、少々分かりづらい。電源も限られている中、被災者が最小限の手間で身近な情報を手に入れられることが重要です。

何なら、ここにある情報をYahoo!のマップにも載せてほしいと思うくらいですね。(NHKはデジタルを畳んでいくなかで、このサイトはどうするのでしょうか)

そしてこの災害マップの特徴は、単に地図で視覚化したことではありません。説明を引用します。

「災害マップ」はユーザーから投稿された災害の周辺状況をリアルタイムに確認できます。ユーザーの投稿情報は「Yahoo!防災速報アプリ」で収集しています。

つまり、被災者自身の投稿に基づいて、いま何に困っているのかなどを明らかにしているのです。メディア側と被災者が情報を持ち寄れば、いま喫緊の課題や、支援の手がかりにもなるのではないでしょうか。救助の派遣や、物資を的確に送るのにも利用できるかと。国や自治体など、当局にも情報を打ち込んでもらえれば、それこそ「公共的な情報集約の場」になっていくかもしれません。

もちろん、利用する人が悪意に基づいて事実ではない発信をするおそれはありますが、メディア側で載せる情報をチェックできる態勢にすればこういう取り組みも可能だと思います。

民間の取り組みから始まる新たな「参加型の公共」も

「みんなで作る」という観点からは、こんな取り組みも始まっています。市長が「壊滅的な被害だ」と表現した珠洲市について、建物や道路の被害の状況をみんなで共有できるデジタル地図でマッピングしていこうというものです。

この「令和6年能登半島地震 2024 建物・道路マッピング. 石川県珠洲市」は、青山学院大学の古橋大地教授をはじめとした、 HOT(Humanitarian OpenStreetMap Team)Japan メンバーと NPO法人CrisisMappers Japanが立ち上げたもの。「現地には行けないけど、後方から何らかの支援をしたい」という人たちの気持ちを受け止めるものにもなっているかと。

クライシスマッピングのサイトより

この取り組みは世界的にも成果を挙げていて、去年のトルコ・シリア地震のクライシスマッピングには世界中から1万人ほどが参加しました。実は日本と違って海外ではまだ地図が十分に整備されていない場所も多く、この地震の被災地でも地理的な情報が乏しい状況でした。それをこの取り組みが補完し、実際に救援救助フェーズから現場で活用されたということです。

即座に被災状況をマッピングした読売にも称賛の意見、ただ方向性はこれでいい?

読売新聞も、いち早く「マッピング」のコンテンツを発信しました。Yahoo!とは違い、生活情報ではなく、被害の状況を画像と短いテキストで連動させたもので、スクローリーテリング(画面をスクロールしていくと話が展開してくWEBでの表現方法)の手法で作っています。SNSでは称賛の意見も見られました。

読売新聞の中の人によると、ウクライナの被害状況を描いた3Dコンテンツ以来、デジタルコンテンツの指導をしている東京大学の渡邉英徳教授が伝授したArcGIS(地図や情報を検索、作成、共有できるプラットフォーム)を使う手法で作られたもので、だからこそ即座に出せたということです。

その一方で、課題も感じました。スマホではまだしも、PCだと極めて視認性が悪いことです。そもそも、スクローリーテリングという手法がこれに合っているのかどうかは、検討が必要かと。

また、こういう演出だと、被災者や支援者が見てすぐに何かに役立つものとはなりにくい。とはいえ、必ずしもそうした人を対象に作るコンテンツばかりでなくてもいいとは思います。東京在住のある研究者と話したところ、「自分はこの地域の地理的なことが全く分からないので、被災のイメージをつかむのにはよかった」とのことでした。むしろ被災地から離れた人にイメージしてもらうためのコンテンツとしてはいいのかもしれません。

そして、これはウクライナのコンテンツの時もそうでしたが、せっかく作ったのに拡散の努力がちょっと足りないのではと思っています。読売新聞のサイトのトップページを見ても、こうした取り組みをやっていることが分かりません。

ちなみに渡邉教授自身も国土地理院の空中写真などをもとに、被災地の3Dデータをマッピングして、津波や崖崩れなどの被害状況を立体的に把握できるサイトを立ち上げています。こちらは端的に被害の深刻さが分かるコンテンツになっていて、メディア顔負けの取り組みです。

珠洲・輪島フォトグラメトリ・マップのサイトより

この先の被災者支援に重要!道路情報

支援物資を送るための「命綱」、道路の情報も一つの「ライフライン」ですよね。今回はメディアよりも公的な組織などの発信が目につきました。

まずは石川県が出している「石川みち情報ネット」。どこが通行止めになっているか、マップで視認できます。重要な情報ですので、Yahoo!のマップと統一できたら、極めて利便性が高まるだろうなと思いました。

石川みち情報ネットのサイトより

自動車業界など官民が参加したNPO法人・ITS Japanも「乗用車・トラック 通行実績情報」を発信しています。ITS(Intelligent Transport Systems=高度道路交通システム)を使って、実際に通行できた実績のある場所を示しています。(ただし、「通行を保証するものではない」としています)

ITS Japanのサイトより

一企業の取り組みですが、トヨタもテレマティクスサービス(車載の通信システム)を利用している車両からのデータを基に、直近24時間以内の通行実績をリアルタイムで地図上に表示する「通れた道マップ」を公開しています。

「通れた道マップ」のサイトより

ただ、いずれのサイトも限られたデータをもとに作成されているので、一つのサイトの情報だけではなく、複数の情報をチェックしていくことも大事ですよね。こうしたデータも、メディアはもっと積極的に活用してはどうでしょうか。

旧来型のメディアにはない新たな可視化

いまや知名度も高くなってきたであろう、「特務機関NERV」の防災アプリ。今回に限ったことではありませんが、津波警報が発出された際、一覧だけでなく、即座にマッピングなどによって表現しています。これも「危機の可視化」につながるよい取り組みですね。

地震の主要動までをカウントダウンで表示するのも独特で、対処しなければという意識を高める一助になっているかもしれません。

こうした発信を見るにつけ、旧来型のメディアはたゆまぬ改善の努力をしていかないと、「もうお役御免だ」と思われかねないですね。

「ライブブログ」「タイムライン」などは目立たず

災害の発生からその後まで、時系列で何が起きているかを発信し続ける「ライブブログ」や「タイムライン」。これも後の検証には貴重な記録になるので、重要です。

今回はあまり目立ったものがありませんでした。朝日新聞のこちらの発信ぐらいでしょうか。毎日新聞でも、それぞれの記事の末尾に「【能登半島地震】を時系列で見る」というものがありますが、これは単に記事を発信時間順に並べてあるように見えます。

話題になった「避難の呼びかけ」ではこんな取り組みも

大津波警報が発出された時の、NHKの山内泉アナウンサーの「絶叫モード」での呼びかけ、話題になりましたよね。

ただ、こうした呼びかけ、山内さんだけができるわけではありません。東日本大震災の時の反省から、NHKではその後の災害でもこうした強い口調での呼びかけをしています。毎日、夜中の最終ニュースが終わった後で、泊まり勤務のアナウンサーと「おはよう日本」のスタッフが訓練をやっているので、少なくとも東京にいるNHKのアナウンサーならこうした発信ができるはずですし、するはずです。

実はこんなものがあります。NHKの様々な種類の「呼びかけ」を、テキストやAIの音声でダウンロードできる公開サイトです。

あの「絶叫モード」はありませんが、基本的なものをいろいろと取り揃えているので、自治体関係者なども利用できるのではないでしょうか。でも、これもデジタル縮小でどうなるのか……。

一方、兵庫県のサンテレビがこんな取り組みをしていました。比較的人数の多い英語や韓国語、中国語だけでなく、ベトナム語、ネパール語、タガログ語、ポルトガル語などの各種言語での避難の呼びかけを事前に収録しておいて、それを流していったのです。

「避難弱者」になりがちな外国人への取り組みとして有意義なものですが、これがAIによってその時々の状況に応じて自動的に内容を変化させ、発信できるようになる未来が近いうちに来るのではないかと想像しました。

シンプルな視認性が改めて重要だと考えさせられる

凝りすぎて視認性が悪いサイトというのは、今でもよく見られます。ウェブ表現の熟達者になればなるほど、ユーザーにとって何が一番わかりやすいかを考えてコンテンツを作成していますよね。

今回の地震では、余震の多さも特徴です。増減を端的に可視化したこちらの発信も、非常に分かりやすいものでした。


震災をめぐるコンテンツは、これからさらに充実していくと思いますので、注目していきたいと思います。そして命を守るためのプラットフォームはやはり必要です。それをどこがどう担うのか、その行方も追っていこうと思います。


スローニュースでは、被災地で取材するジャーナリストに役立つ『災害前線報道ハンドブック』を連載しています。発災時にまず何を取材するべきか、記者の配置はどうするのか、避難所や仮設住宅での着目点は、防災計画などの検証は。こうしたテクニックを実例をもとに連載しています。

※続報です。Yahoo!が取材に応じました。こちらも合わせて読んでいただけると嬉しいです。




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