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「裁判所にこそ不当な身柄拘束を長引かせた最大の責任がある」大川原化工機冤罪事件をめぐるNHK解説委員の重要な指摘

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『大川原化工機えん罪事件』 司法の責任は

スローニュースでもお伝えしてきた、化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の冤罪事件。

勾留中に判明した胃がんで亡くなった元顧問・相嶋静夫さん(当時72歳)の遺族が、東京拘置所で適切な医療を受けられずがんの発見が遅れたなどとして国に損害賠償を求めていましたが、東京地裁(男澤聡子裁判長)は3月21日、請求を棄却しました。

判決を受けて、NHKの清永聡解説委員が、さっそくその日に『司法の責任』を問う解説を発信していました。

まず東京拘置所の医療体制を明らかにしたうえで、相澤さんに対して根本治療が行われてこなかった経緯を時系列で詳しく紹介しています。遺族が「十分な医療を受けられなかったためがんの発見が遅れ、死期が早まった」と国を訴えている理由が浮かび上がってきます。

判決では、「診療行為には合理性がある。医師に違法な行為はなかった」などとして、遺族の訴えをすべて退けましたが、清永解説委員は、「医療の争点とは別に、根本的な問題があることに気がつくでしょうか?」と投げかけます。

それは起訴された後、身柄の拘束を解く「保釈」という仕組みについてです。裁判官が判断さえすれば、もっと早く保釈されて自由に治療を受けられたはずなのです。相嶋さんはようやく入院したものの、すでに手術は難しく、2カ月後に亡くなりました。入院の際も保釈は認められず、勾留の一時執行停止という形でした。

清永解説委員がここで強調するのは、法律の運用についてです。

保釈を認めなかった理由は、「罪証隠滅の“おそれ”」ということですが、清永解説委員は「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由」(刑訴法89条 一部)という法律の文言に着目し、「“おそれ”ではなく“相当の理由”です。この2つ、ニュアンスが大きく違うように見えます」と指摘します。

清永解説委員によれば、そもそも旧刑訴法が戦後の改正で「虞(おそれ)」から「相当の理由」に改められ、そこには人権保障を強化しようという考えがあったということです。保釈の請求を退けるのならば、重病の相嶋さんに証拠隠しができるというその「理由」を“具体的”に示すべきなのではないかと疑問を投げかけます。

罪を認めないと保釈がされにくい、いわゆる「人質司法」と呼ばれる恣意的なルールの運用。それを目の当たりにしたような今回の事件でした。

「裁判所こそ、不当な身柄拘束を長引かせた最大の責任を負っているのではないか」

清永解説委員の最後のこの指摘に、問題の本質があるように感じます。(熊)

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