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宮崎県警の証拠写真データ改ざん疑惑、来月初旬に東京地検に告訴へ…メーカーも改ざん可能を事実上認める回答

取材・執筆 フロントラインプレス

2020年に起きた殺人事件の証拠写真を収めたSDカードのデータを宮崎県警が改ざんしたとされる問題。当時の宮崎北警察署長らを証拠隠滅罪で告訴する方針を固めていた被告・弁護人は、告訴状を11月初旬に東京地検へ提出する。(※当初、10月31日の予定だったが、弁護人が高熱を出すなど体調を崩したため、11月初旬に延期された)弁護人らは東京で記者会見を開いて、今回のケースを詳しく説明するという。


全国の警察で採用されているSDカードに欠陥か、過去にも「故意に消去」疑惑が

改ざんが疑われている問題のSDカードは、半導体メーカー・キオクシア社製の「Write Once(ライトワンス)メモリーカード」で、「改ざん防止機能付き」として全国の警察に広く採用されている。しかし、ライトワンスには大きな欠陥があり、簡単な操作で写真データを改ざんできることが一部の警察関係者や技術者の間では以前から知られていた。

キオクシア社製メモリーカード「Write Once」(撮影:フロントラインプレス)

2019年12月に大阪地裁で判決が言い渡された覚せい剤取締法違反事件では、SDカード記録の消去が争点の一つになった。

この事件では、被告の男が大阪市内の路上で、大阪府警の警察官から職務質問を受け、近くの警察署まで任意同行を求められたものの、これを拒否。すると、警察官たちは強制採尿令状が出るまでの5時間以上にわたって被告を取り囲んで歩けないようにしたり、タクシーへの乗車を邪魔したり、さらに電車内では左右から抑えつけて腕をねじり上げたり、携帯電話による通話も妨害したりしたという。

採尿検査で覚せい剤反応が出たため、男は逮捕・起訴されたが、被告・弁護側は公判で警察官が撮影していたビデオカメラの動画データの証拠開示を請求。パトカーの車載カメラのデータについても開示を求めた。強制採尿令状が出るまでの時間は任意の事情聴取だったにもかかわらず、違法な捜査を強行したことを立証するのが目的だった。

ところが、検察側は動画データの開示を約束した後、4枚のSDカードに収められていた動画データは平野署員が誤って消去したとして開示を果たさなかった。被告・弁護側への検察側の説明によると、4枚のSDカードは署内で再利用されて上書きされ、証拠となるはずの動画データは消えてしまったという。この事件の弁護人は当時、フロントラインプレスの取材に対し、「データ消去はただの過失だったと検察側は主張するが、平野署員らの証言はあまりにも不自然。職務質問の状況の違法性を糊塗するため、故意に消去したものだ」と指摘した。

大阪の覚せい剤事件の判決が出る1年ほど前には、新潟県の地方紙・新潟日報がキオクシア社製SDカードの問題を取り上げ、「改ざん可能製品 捜査で使用」「県警などの証拠写真記録SDカード」「冤罪の恐れ 指摘も」と1面トップで大きく報じた(2018年10月4日朝刊)。捜査用デジタルカメラで記録されたSDカードの画像データが、実は改ざんや消去が可能だという事実を指摘するものだった。

改ざんができるか、実際に試してみたら…

キオクシア社のホームページによると、ライトワンスは「改ざん防止機能付き」で、「一度記録した原画像ファイルに対して上書き(編集・加工または消去)が出来ない書ききり型の記録媒体」と記されている。

ところが、SDカードの技術やカメラ業界の関係者、警察関係者らは「キオクシアのホームページの内容は事実と異なる」と指摘する。

キオクシア社のホームページより

ライトワンスに記録された画像ファイル(原本)はパソコンにコピーすることができ、パソコン上でその画像の編集や消去が可能。そのうえで、加工後の画像を別のライトワンスにコピーすれば、“新たな原本”が作成できるのだ。パソコンだけでなく、デジタルカメラの内蔵メモリーを使っても同じことができるという。

フロントラインプレスは、実際にライトワンスを使って画像の改ざんや消去が可能かどうか、新たな原本を作成できるかどうかを試したことがある。手順は、

①専用カメラで横断歩道付近を撮影する
②カードをパソコンに入れて画像をコピーする
③画像の編集ソフトを使って横断歩道付近に“タイヤ痕”を付ける
④タイヤ痕が付いた新たな画像を別のライトワンスにコピーする

――という流れだった。

担当したのは、専門的な知識のないメンバー。初めての操作だったにもかかわらず、30分ほどですべての作業が完了した。タイヤ痕のほかに、車両のナンバーを変更したり、5人が写った集合写真を4人の集合写真に変造したりも容易にできた。色合いやトリミングの加工も簡単だった。

メーカーも「編集したファイルを別のカードに同じファイル名で書き込みは可能」と回答 

警察庁は捜査の写真撮影で用いる記録媒体について、2019年3月の通達で「構造上、記録した原画像ファイルの編集、加工及び消去が不可能なものを使用すること」と全国の警察に指示している。しかし、ライトワンスが抱える大きな欠陥を問題視したためか、警察庁の通達よりも厳しい基準でSDカードの調達を進める警察も出てきた。

例えば、宮城県警や新潟県警は入札の際の仕様書で「PCで追加画像データの貼り付けができないもの」「デジタルカメラ等の編集機能を使った加工、編集および複製ができないもの」「一度書き込んだデータの、一切の削除、改変、上書き、名前の変更および画像情報の変更ができず、初期化も不可能なもの」と明記。秋田県警も仕様書で「パソコン上で編集・加工した画像を媒体にコピー(追記)できないこと」との基準を示している。

今回の問題に関し、キオクシア社は取材に対し、以下のように答えている(太字はフロントラインプレスで付記)。

質問① 御社が製造しているSDカード「ライトワンスメモリカード」は、パソコン上の編集で画像を取り込むことができると指摘されています。この事実関係は間違いありませんか。

回答 ライトワンスカードに一度記録した画像ファイルは上書き(編集・加工)、削除が出来ません。その画像ファイルをPCにコピーすることは可能です。
 → コピーしたファイルをPCで編集し、同じライトワンスカードに同じファイル名で上書きするのは不可
 → コピーしたファイルをPCで編集し、別のライトワンスカードに同じファイル名で書き込みするのは可能

質問② ライトワンスメモリカードは画像をパソコン上で取り込むことができるため、警察などが恣意的に証拠画像を選んで取り込んだ捜査記録の原本を作り出すことができると指摘されています。この指摘について、御社の見解を教えて下さい。

質問③ 警察庁は、全国の都道府県警に捜査記録の原本が改変されたと疑われない媒体を使うよう求めています。御社の製品は多くの警察に納入されていますが、警察庁の通達に適合しているとお考えでしょうか。

②③の回答 本ご質問は、ライトワンスメモリカードのご質問ではなく、警察での運用に関するご質問と思いますので。回答を控えさせていただきます。

※ 宮崎県の今回のケースについて、調査報道グループ「フロントラインプレス」は2022年秋から取材に着手。今年春からは宮崎県と同じ九州の地方紙・熊本日日新聞とも協力関係をつくり、合同で取材を進めている。

証拠の改ざん・隠蔽がもしあれば、日本の捜査当局への信頼を失わせる重大な問題になる。現在配信しているスローニュースの記事では、警察内部でも改ざん可能なSDカードの危険性を指摘する声が上がっていたことなどを伝えている。

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