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【スクープ】宮崎県警による証拠改ざん疑惑のSDカード、警察庁が以前から「改ざん可能」を把握していたことが新証言で発覚

取材・執筆 フロントラインプレス

殺人事件の証拠画像を記録したSDカードを、宮崎県警が改ざんしたとされる疑惑。スローニュース上でこれまで6回にわたって報じてきたが、新たな事実が発覚した。

問題となっているのは、キオクシア社(旧・東芝メモリ社)製の「Write Once(ライトワンス)メモリーカード」。このSDカードは改ざんできないとされ、ほとんどの都道府県警察で使用されているが、実際には遅くとも2018年には警察庁が書き換え可能であることを把握していたことがわかったのだ。

「私は(警察庁主催の技術コンクールで)『ライトワンスは改ざんできる』とプレゼンしたことがあります。警察車両のナンバープレートの写真をものの5分で改ざんし、ナンバープレートを違う車両に付け替えて見せたのです」

このプレゼンはコンクールで「長官官房長賞」を受賞するほど注目を浴びた。

「簡単に改ざんできるからこそ、あのカードを警察が使ってはいけないのです」

フロントラインプレスは、そう語る元警察官の男性に会った。


少なくとも34枚の削除・改ざんの痕跡

2020年に宮崎市のJR佐土原駅前で当時47歳の男性が刺殺された殺人事件では、被害者の知人である久常芳治被告(46)が殺人罪などに問われ、宮崎地裁で裁判員裁判の公判前整理手続が行われている。

そのなかで、弁護側は「被害者が突然、久常被告をナタで襲ってきたため、やむを得ず包丁を差し出した」として正当防衛による無罪を主張。現場で発見されたナタに被害者男性の指紋が付着していないかを調べるため、現場に遺留されていたナタの指紋を撮影した写真の開示を検察側に求めたところ、強く抵抗され、その後、提出された写真や撮影データに不審な点が見つかった。そして、専門業者に依頼するなどして撮影データを解析したところ、少なくとも34枚の写真データが削除されたり、改ざんされたりした痕跡が確認できたという。

「隠蔽された写真がある」と弁護側がまとめた資料の一部

このため、被告・弁護側は昨年11月、事件当時の宮崎北警察署長ら3人を証拠隠滅罪で東京地検に告訴した。この事件は、宮崎地検の上級庁である福岡高検に回付され、年明けから関係者への聴取が始まる見込みになっている。

改ざん疑惑では「ライトワンスの撮影データは書き換えができないとされているが、それは本当か。実際は書き換えできるのではないか」が焦点の1つだ。

弁護団が実施した検証実験では、パソコンやデジタルカメラを介することによりライトワンスで撮影したデータのファイル名などの書き換えができることが判明した。また、書き換えたデータを別の新しいSDカードに書き込むことによって、「偽物の原本」を作成できることも明らかになっている。

ところが今回、警察庁も遅くとも2018年10月の段階で「ライトワンスは書き換え可能」という事実を把握していたことが発覚したのである。それが先に記した「警察庁で行われたプレゼン」の存在だ。

プレゼンの主は宮城県警の元警察官で、交通鑑識の職務に長く従事していた澁澤敬造さん(63)。現職時代は警察庁指定交通鑑識広域技能指導官として活躍した。

澁澤敬造さん(撮影:フロントラインプレス)

警察庁の要綱によると、広域技能指導官とは「全国的に見て極めて卓越した専門的な技能又は知識を有する警察職員」であり、警察庁長官が指定する。いわば、捜査におけるプロ中のプロで、警察史上、東北・北海道の警察官としてはただ1人の指定だ。澁澤さんは現在、東京都内で交通事故防止コンサルタントとして「交通事故調査澁澤事務所」を運営し、どの企業にも属さない中立的な立場の交通事故鑑定人として活動している。

鑑識のプロだった澁澤さんは、ライトワンスの何に気づいたのだろうか。

ここから先は会員限定です。実際に5分もかからず改ざんできることを示した研究発表の内容を明らかにします。そのことを、警察庁は把握していました。それがなぜ使われていたのでしょうか?

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