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広がる「PFAS汚染列島」…行政が動かない中、市民が独自の調査で解明も

PFAS汚染地域の代表が一堂に

「PFAS汚染列島」の現実をあらためて印象づけられた。

8月17日に開かれた「PFASオンライン全国交流集会」。

南は沖縄から北は青森まで、PFAS汚染が確認された場所のうち、17地域の代表が汚染の現状や取り組みの内容などについて報告した。大規模な血液検査を実施するなどしてきた「多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS) 汚染を明らかにする会」が主催した。

汚染源は全国各地で見つかっているが、「PFOS」が高濃度で検出されていれば基地(米軍または自衛隊)や空港、「PFOA」であれば工場や産業廃棄物に大別できる。これに従うと、報告のあった17地域は以下のように分けられる。(汚染源不明の熊本市のぞく)

【PFOS】

<米軍>  沖縄・宜野湾市/金武町など、広島・東広島市、神奈川・座間市、横須賀市、東京・多摩地区、青森・三沢市
<自衛隊> 岐阜・各務原市、愛知・豊山町、静岡・浜松市、千葉・柏市/鎌ヶ谷市

【PFOA】

<工場> 大阪・摂津市など、三重・四日市市、静岡・静岡市、神奈川・相模原市
<産廃> 岡山・吉備中央町、兵庫・明石市/神戸市、京都・綾部市

全国で汚染源とみられる場所。交流集会に参加したのはこの一部(諸永裕司作成)

市民による独自の調査で解明

各地からの報告から見えてきたのは、行政による汚染源の特定が進まないなか、市民が独自に調べているという点だ。測定・分析を担ったのは小泉昭夫・京大名誉教授と原田浩二・京大准教授である。

愛知県豊山町のケース

たとえば、高濃度を理由に配水場が停止になった愛知県豊山町では、汚染の疑われるエリアで水質調査を重ねたところ、陸上自衛隊・小牧基地が汚染源として浮かび上がった。

坪井由実さん作成

自衛隊は、県営名古屋空港と三菱重工小牧南工場と滑走路を共用する敷地で2010年ごろまで定期的に消火訓練を行い、1994年に起きた中華航空機墜落事故では4千リットルの泡消火剤を使った、という。

「調査結果などをもとに愛知県に訴えたところ、『環境審議会で対処する』と回答されたのですが、議事録をみてもPFAS汚染が議論された形跡がありません。汚染源であることは明らかなのに、宙に浮いたままになっています」(坪井由実さん)

三重県四日市市のケース

三重県四日市市では、市内にあるPFASの調査地点が河川1カ所だったため、より詳細な調査を市に求めたところ、「調査不要」とされた。そこで独自に調べると、半導体工場の排水口近くから145ナノグラム、さらに別の排水から574ナノグラムのPFOAが検出されたという。

こうした結果を示すと、市はようやく追加調査に応じた。しかし、新たに調べたのは工場よりさらに遠い下流の地点などだったという。

「汚染源が上流にあるのに、下流で調べても汚染源の特定につながるはずはなく、科学的合理性を欠いています」(松岡武夫さん)

神奈川県座間市のケース

水道水源の9割近くを地下水に頼る神奈川・座間市でも似たようなことがあった。米軍・キャンプ座間近くを流れる鳩川から100〜130ナノグラムが検出されたものの、その後、別の調査の結果をもとに「汚染源は米軍ではない」と説明されたという。

兵庫県の明石市と神戸市のケース

兵庫・明石市および神戸市では、県議の丸尾牧さんが独自に調べ、4か所の産業廃棄物処分場が汚染源であることを突き止めた。また、京都・綾部市では事業所が放出した原水から49,000ナノグラムが検出され、やはり産廃処分場が汚染源であることが明らかになっている。

丸尾牧さん作成

客観的なデータから汚染源は絞り込まれているにもかかわらず、行政は、汚染の除去や浄化といった対処を業者に迫るには至っていない。

背景には環境省の「手引き」が

背景にあるのは、環境省が2020年6月に全国の自治体に対して通知した、「PFOS及びPFOAに関する対応の手引き」があると見られる。そこには、

<飲用に供する水源のある地域において調査範囲を拡大し、地下水の汚染範囲の把握に努めること。必要に応じて排出源の特定のための調査を実施し、濃度低減のために必要な措置を検討すること>

と記されている。

裏を読めば、「飲み水に使う水源がない場合」あるいは「必要がない場合」には、汚染源の特定は求められていないことになる。そもそも「必要に応じて」とはどういう状況を指すのかも示されていない。

もう一つの要因は、遵守を義務づけられる水質基準や環境基準の項目にPFASが入っておらず、排出基準も定められていないことだろう。

環境省の入る合同庁舎(撮影:スローニュース)

40年近く前に、有害物質のトリクロロエチレンによる水質汚染が起きた愛知・豊山町で、いまはPFAS汚染を追跡する坪井由実さんは、苦い経験を忘れていない。

「当時、愛知県の調査で汚染源はほぼ特定できていたのですが、最終的には『断定できない』として幕引きをしたのです。今回も同じ轍を踏まないように、自分たちでデータを揃えることが重要だと考えています」

米軍・横田基地のある東京・多摩地区で汚染と向き合う高橋雅恵さんは「汚染者責任が明記された米国防省令などにもとづく立ち入り調査や汚染浄化を米軍に求める必要がある」と指摘した。また、全国に共通する課題として、PFASを含む廃棄物の法制化や土壌基準の設置、汚染の影響を受けやすいこどもを含めた血液検査の実施などを訴えた。

報告者に与えられた時間は各8分。それでも、PFAS汚染の出口を探ろうとする市民たちの交流会は2時間をゆうに超えた。

スローニュースでは「諸永裕司のPFASウオッチ」として、PFAS汚染をめぐる最新の情報をどこよりも詳しく配信している。


諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。スローニュースで『諸永裕司のPFASウオッチ』を毎週連載中。(https://slownews.com/m/mf238c15a2f9e
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com