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【諸永裕司のPFASウオッチ】沖縄の渇水危機の背景に基地が原因とされるPFAS汚染、このままでは飲み水の水質に影響も

「永遠の化学物質」として問題になっているPFAS(有機フッ素化合物)の最新情報を伝えているジャーナリスト、諸永裕司さんの「PFASウオッチ」。11回目の舞台は沖縄県。いま渇水が問題になっていますが、その背景にあったのは――。

沖縄のPFAS汚染を扱ったテレビドキュメンタリーの秀作がふたつある。

「命(ぬち)ぬ水(みじ)~映し出された沖縄の50年」(琉球朝日放送)

そして「水(みじ)どぅ宝」(沖縄テレビ)だ。

いずれも優れた番組に送られるギャラクシー賞(2022年度)を受けている。

それぞれの番組タイトルは「命の水」と「水こそ宝」を意味する。大きな河川や湖などの水源にめぐまれない沖縄ではとくに、水と生きることとが直結している。

沖縄では、米軍の施政権下から本土に復帰した1972年以降、給水制限は延べ1099日にのぼり、1981年7月から326日続いたこともあったという。

その沖縄がまた、渇水の危機にある。

渇水危機の背景にPFAS汚染

降雨量が過去10年で最低を記録し、沖縄県内に11カ所あるダムの貯水率は通常の80%を大きく下回り、60%を割り込んでいる。沖縄本島で必要とされる約40万トン/日の95%をダムからの取水に頼っているためだ。

だが、渇水を招いたのは自然の影響だけではなさそうだ。

那覇市など沖縄県民の3人に1人に水を供給する北谷浄水場では、もともと比謝川や嘉手納井戸群といった「中部水源」から取水していていた。

比謝川(撮影:諸永裕司)

しかし、米軍・嘉手納基地によるとみられるPFAS汚染への関心が高まったこともあり、1年前から中部水源からの取水を止め、水源をダムに切り替えたのだった。

渇水の不足分を補うのは海水淡水化施設だ。7台の装置を最大限稼働させることで、1日あたり3万7千トン、通常の7倍を超える水を供給する。そのための費用は2カ月あまりで約7億万円になるという。

米軍基地を汚染源と認めず、日本の税金を投入

PFAS汚染によるコスト負担はだれが担うべきか。

沖縄県は、中部水源からの取水停止を招いたPFAS汚染は米軍基地に由来するとみているが、基地内への立入検査は汚染発覚から8年たっても実現していない。日米両政府は米軍基地が汚染源だとは認めおらず、汚染対策の費用を国や米軍が引き受ける見通しは立っていない。

普天間基地のある宜野湾市でPFAS汚染問題に取り組む市民団体「宜野湾ちゅら水会」の照屋正史さんは、PFAS汚染と財政負担について調べてきた。

北谷浄水場でPFASを除去する設備改良工事には16億円かかった。このうち、3分の2(10億6千万円)は防衛省が補助金を出したが、防衛省は「米軍基地と汚染との因果関係は確認されていない」とし、こう説明した。

<安全な飲料水を継続的かつ安定的に周辺住民や嘉手納飛行場に供給するため>

北谷浄水場(撮影:諸永裕司)

水を汚した米軍にも、きれいにした水を供給するために税金が投じられたのだ。

また、照屋さんが情報公開請求によって手に入れた沖縄県の文書(2023年6月修正版)によると、PFOS等対策費は総額32億円にのぼり、このうち14億円は沖縄県の負担となっている。

照屋正史さん(撮影:諸永裕司)

沖縄県は「県民の理解が得られない」としてきたが、2024年秋から、水道料金を段階的に値上げする。施設の老朽化や電気料金の高騰のためとしながらも、PFAS対策予算に年間10億円を見込んでいる、と明らかにした。

照屋さんは言う。
「いま直面している水不足は渇水のためだけではないはずです。汚染によって川から取水できなくなり、ダムからの供給量が増えたことが貯水率の低下を早めたのは間違いない。対策費用も含めて、なぜ私たちがそのツケを払わなければならないのでしょうか」

飲み水の水質にも影響が出るおそれ

沖縄県では、ダムの貯水率がこのまま下がり続けると、一時見送った「中部水源からの取水」を再開せざるをえなくなるという。

金武ダム(撮影:諸永裕司)

結果として飲み水の水質にも影響がでるのでは、と照屋さんは懸念している。

「北谷浄水場のPFOS・PFOA濃度はいま、1ナノグラムを下回っていますが、汚染された中部水源からの取水を再開したら濃度は高くなるでしょう。今後、国の目標値が引き下げられれば、再び沖縄の水の安全が脅かされることになるかもしれません」

国は2月にもPFOS・PFOAの目標値を見直すとしている。

東京・多摩地区の住民たちも、都の責任で住民の血液検査をすることや、汚染源と疑われる米軍・横田基地への立ち入りを国に求めている。現在配信中のスローニュースでは、多摩地区の学校で汚染された水が飲用に使われていた実態を明らかにしている。

諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄の密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com

                                 


 

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