オードリー・タン氏は東京都知事選をどう見た?AI技術を駆使する安野貴博氏が日本政治にもたらすインパクトとは
今年7月の東京都知事選で15万票を獲得した人工知能(AI)エンジニアの安野貴博氏(33)。AIなどを活用して民意を政策に反映する「デジタル民主主義」を実践し有権者の支持を広げていく試みは、大きな注目集めた。
この安野氏の試みを、デジタル民主主義の先駆者として台湾の行政DXに取り組んできた元デジタル担当大臣のオードリー・タン氏はどう見たのか。
7月25日にあった国際カンファレス「Funding the Commons」では、両者によるトークセッションが実現。デジタル民主主義の課題や日本政治への影響を議論した。
安野氏が自身の取り組みを振り返る前編に続き、後半ではオードリー氏と安野氏の議論の内容をお送りする。
なお、対談は英語で行われ、筆者の責任で翻訳・編集した。
取材執筆 石神俊大
安野氏の試みは「大きな何かの始まり」
安野貴博(以下、安野):
今回の都知事選における私の取り組みを見て、オードリーさんはどう感じられましたか?
オードリー・タン(以下、オードリー):
素晴らしいPoC(Proof of Concept、概念実証)だと思いました。これまではリアルタイムに多くの人々の意見を集めるために多くのスタッフが必要でしたが、安野さんの方法なら簡単に実践できますよね。
安野:そうですね。
オードリー:誰もがWikipediaを知っているように、多くの声を集める方法としてのクラウドソーシング自体は、新しい概念ではありません。これまでは常に多くのモデレーターが必要でしたが、いまや私たちはLLM(大規模言語モデル)とAIを使って自分自身を複製できる。
たとえば、これが数カ月前ではなく4年前に始まっていたらどうでしょうか?本当に政治的な影響力をもっていたはずです。今回はPoCだったかもしれませんが、これはもっと大きな何かの始まりなのだと感じます。
別の未来をエンジニアリングせよ
安野:ありがとうございます。以前オードリーさんは「これはもはやSFではない」と仰っていましたよね。ただ、私はSF作家でもあります(笑)。
オードリー:いえいえ、素晴らしいことですよ!それは人々に近未来の可能性を指し示すことですから。これまでの軌道に沿って世界が進むのであれば、未来は誰もが推測できるはずです。しかし、SF作家や詩人、そして私たちは、すぐそこにある別の未来を指し示すことができる。もし私たちが別の方向に少し舵を切るだけで、はるかに良い未来へ到達できるのです。
そのためにも、PoCは重要なのです。PoCがなければ、人々は単なるSFだと思ってしまう。だから、想像を技術の力で形にする「イマジニアリング」が重要なのです。これはまさにエンジニアの仕事でもあります。
デジタル民主主義の課題とは
安野:新たな可能性を見出だせた一方で、このシステムには限界もあると思っています。現在のデジタル民主主義の限界はどこにあると思いますか?