逃亡者を捜し出すテクニック、過程を全て公開します
追跡のヒントは友達のインスタ
2021年、ベリングキャットの調査員は、Instagramアカウントを作り、ルンドの親しい友人でサンディエゴに住む20歳のグレイディ・メイフィールドをフォローした。
2022年4月にベリングキャットと人権団体「南部貧困法律センター(SPLC)」が共同でメイフィールドの移動記録や活動を調査してから(ちなみに彼は2021年にアメリカ海兵隊の新兵訓練に参加したものの、追放されている)、メイフィールドのInstagramアカウントは非公開になった。しかしフォロー済みだったベリングキャットの調査員は引き続きメイフィールドの投稿を見ることができた。その後、メイフィールドは、2022年10月26日にアカウントを一時停止したか削除したようだ。
10月16日、数週間にわたり北マケドニアやギリシャから写真や映像を投稿した後、メイフィールドは自分が写った白黒写真に「旅の途中」というキャプションをつけて投稿した。以前の投稿とは異なり、今回は位置情報がついていなかった。
ふたりとも気をつけたのだろうが、写真はブルガリアのプロブディフで撮影されたと断定できた。当時、メイフィールドは南東欧にいるにちがいないと推測し、後ろに見えるフェンスを南東欧の主要都市のものと比較していったのだ。
ギリシャの首都アテネ
セルビアの首都ベルグラード
北マケドニアの首都スコピエ
ブルガリアの首都ソフィア
それらを調べた後に、ブルガリア第2の都市プロブディフの中央分離帯がある通りを調べたら、すぐに見つかった。植物がからみついた黒っぽい色のフェンス。
Googleストリートビューでプロブディフの通りをしらみつぶしに確認しはじめてから数分後、撮影した場所が特定できた。街の北部にあるバス停だ。
ではルンドもプロブディフにいるのではないか。その証拠も探そうということになった。
ではルンドの居場所も割ってみよう
10月19日、ルンドは極右ブランドのテレグラム・チャンネルに、キャプションによると「近日発売」のスウェットシャツを宣伝する短い動画を投稿している。
カメラは低い位置から、ルンドとその上にそびえるギリシャもしくはローマの遺跡のような2本の柱を写している。別の柱の前では、カメラに背を向けて立つポーズもとっている。その背景には集合住宅のような建物。最後は、顔が十分識別できる状態で、ルンドがカメラに向かってパンチを繰り出すふりをして終わる。
10月22日、ルンドは新商品の宣伝のためにリンクを投稿。リンク先には、新商品のスウェットシャツを着たルンドのカラー写真があった。ルンドのブランドは、ベリングキャットが極右商品のオンライン販売に関する2022年5月の記事「ファシスト・ファッション」でも取り上げた、フランスのネオナチ服飾小売業者が扱っている。他の写真には、遺跡のなかでルンドが2本の柱の間に立っている様子を写したものもあった。
その前の数週間にわたってルンドが投稿した写真の撮影場所は、ベリングキャットの調査ですべてギリシャだと確定していた。新しい写真もギリシャで撮られたと考えることもできる。
でも、メイフィールドがプロブディフで写真を撮ったなら、ルンドの新しい写真もプロブディフで撮影された可能性が高いのではないか。プロブディフの主要な観光地に、大規模なローマ遺跡があるからだ。
インターネットで検索を始めて数分後、ルンドの新しい写真と動画は、プロブディフの中心部にある古代ローマの広場と劇場の遺跡で撮影されたと判明した。
この画像にある2つのヒント、お分かりだろうか
冒頭で書いたように、10月31日にルンドが投稿した3枚の写真は、背景から何も情報が読み取れないようにぼかし加工がされている。モデルの顔はほとんど見えないが、おそらくはルンド本人だろう。
翌日の11月1日、ルンドは自分が写った白黒写真を投稿した。前日の写真と同じタイプの黒いサングラスと、同じブランドのジャケットを身に着けていて、顔ははっきりルンドだとわかる。「新発売のジャケット」の宣伝のための投稿だ。
メイフィールドの写真がプロブディフ北部で撮られていることから、そのごく近所から捜索を始めることにした。
ヒントは2つ。
1つめは、サングラスに反射している、駐車された車の景色。どうやら交通量の多い通りでも広い通りでもない、何かの建物の裏か中庭で撮ったようだ。
2つめは、背景がぼかされていても見て取れる、壁についた1本の赤い線。
推測は正しかった。10分もたたないうちに、つまりルンドが写真を投稿してから1時間もたたないうちに、場所が特定できた。メイフィールドの撮影現場から角を曲がったところだ。
Googleストリートビューで近所を見て、白っぽい壁にある赤い線を探したらすぐに見つかった。ルンドの写真の背景はぼかされているが、他に見て取れる細部ともGoogleストリートビューの画像は一致する。たしかに同じ場所だ。
ベリングキャットの調査員も、この場所を実際に訪ね、ジオロケーションの正しさを確認した。40メートルも離れていないところ、Googleストリートビューに写っていない2棟の建物の間に、メイフィールドがルンドのブランドのシャツを着てポーズをとっていた写真の背景となった壁も見つかった。10月27日に投稿された写真だ。
通っているジムも特定、そして彼の「サポーター」がいる場所は…
11月3日、ルンドは小さなリングの中でシャドーボクシングをしている動画を投稿した。
脚のわかりやすいタトゥー(10月にプライド・フランスに掲載された写真でも見える)の位置に注意してほしい。数日前に「新商品」として着て宣伝していたジャケットにそっくりの服のエンブレムにも。
写真が左右逆になるよう加工されているとわかる。投稿後4時間もしないうちにルンドはこの動画を削除した。
これもプロブディフで撮影されたのだろうと考えて、場所を探した。おそらくは前の撮影場所から歩ける距離にあるに違いない。
プロブディフのボクシングジムやフィットネス施設の写真をインターネットで確認していった。後ろの壁にある絵のおかげで、大した時間はかからずに場所がわかった。前の撮影場所から徒歩約20分のところにある「パーフェクト・フィットネス」という名前のジムだ。
この後も、ルンドはプロブディフでの写真を投稿し続けた。
11月7日、ルンドは「サポーターの写真」を、ブランドのテレグラム・チャンネルに投稿した。写っているのは、背中をカメラに向けてバーカウンターに座る、素性不明の男性だ。
このバーをすぐに特定できるヒントは、写真のなかにはない。しかしプロブディフにある店だろうと推測して調べた。
英語で「カクテル」と書かれたメニューが背景に見えることから、「カクテル プロブディフ」というキーワードで検索すると、数分後にバーが見つかった。赤い線のある壁から徒歩30分ぐらいの距離にある、プロブディフ中心部の人気店「ロックバー・ダウンロード」だ。
ベリングキャットはブルガリア内務省に連絡し、ルンドが国内にいることを認識しているのか、そして追跡や逮捕、送還をするためにアメリカ当局と協力しているのかと尋ねた。
内務省のスポークスパーソンは質問をブルガリア警察に回し、ブルガリア警察は問い合わせは受け取ったものの、捜査の計画に関係する(進行中の可能性もある)ことなのでコメントできないということだった。
今は「本人が望むほどの人気はない」が「信奉者を増やそうとしていて危険」
自分の名前やブランド、計画を広めようと常に頑張っているのに、ロバート・ルンドはまだ極右勢力内ではとるに足らない存在だ。
メインで使っているテレグラム・チャンネルは、2022年5月にGoogle PlayストアからもAppleのAppストアからも排除されてしまい、ユーザーはテレグラムから直接アプリをダウンロードしなければならなくなった。フォロワー数は2022年5月には1万3000人以上いたのに、11月には約1万400人と2割も減った。
「ルンドには、彼自身が望むほどの人気はない」
アメリカに拠点を置くNGO「対過激主義プロジェクト」のリサーチャー、ジョシュア・フィッシャー・バーチはそう言う。
「おそらくインフルエンサーになりたいのだろうが、主流のソーシャルメディアを使えないこともあって難しい」
ルンドの他のテレグラム・チャンネルも低調だ。5月にルンドが作ったバックアップの「無検閲」チャンネルは、11月になってもまだ登録者が5000人に届かない。ブランドのチャンネルも、4月に作った個人チャンネルも、フォロワーは数千人程度しかいない。
とはいえ、国外でも活動しているルンドは、他国の極右運動の経験から学んでいるようだ。
5月、ルンドはテレグラムに、アレックス・デイビスとのほぼ3時間にわたる会話の録音を投稿した。デイビスは2016年にイギリス当局からテロリスト集団と認定されたネオナチ組織「国民活動(National Action)」の共同設立者だ。録音が投稿された時点、デイビスはテロリスト集団の一員であるとして起訴され、勾留されていた。後に8年6カ月の懲役刑を科せられている。しかし、ルンドは「国民活動」を「ストリートの若者の政治についての開拓者」と表現し、フォロワーたちに「国民活動の失墜の原因から学べ」と語りかけた。
フィッシャー・バーチも、ルンドが依然として危険であり、「アメリカの極右のなかで信奉者を増やそうとしている」と注意を呼びかける。ルンドを見本として、RAM風の格闘技クラブがアメリカや他の国でも増え、若い男性を狙って高校やフィットネスジムなどで勧誘活動を行っている。
さらに、フィッシャー・バーチによると、ルンドのソーシャルメディアでの主張はますます強さを増している。メンバーは敵と見なす相手に対し「戦士」として暴力を行使できるよう訓練を積むべきだ、いつでも準備万全で、積極的に活動すべきだと発信しているというのだ。
ベリングキャットはテレグラムを通してルンドに本記事に対するコメントを求め、EU内に合法的にとどまっているのか、なぜセルビアを離れたのか、2023年4月に始まる裁判のためアメリカに帰国するのか、と尋ねた。本記事の公開時点では彼からの返答はない。
ルンドはファッションブランドの仕事で忙しいらしい。
「クリスマスの前にもう1回、新商品がどかんと入荷されるので乞うご期待」
11月29日にブランドのテレグラム・チャンネルには、そんな投稿をしている――そしてふたたび、プロブディフの赤い線がある殺風景な壁の前で撮った写真を添えた。
(了)
取材・執筆 マイケル・コルボーン
ベリングキャットのジャーナリスト、調査員。中東欧での極右活動を調査し監視する「ベリングキャット・モニタリング」を率いる。Twitterアカウントは @ColborneMichael
翻訳 谷川真弓
2022年11月29日