警視庁公安部が「経済安全保障」の名のもとで『捏造』した冤罪事件の真相に肉迫するNスペの迫力
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“冤罪”の深層~警視庁公安部で何が~
捜査にあたっていた現役の警察官が、証人として出廷した裁判で「まあ、捏造ですね」「捜査員の個人的な欲というか、動機がそうなったんではないか」と異例の証言をして話題になった大川原化工機事件。
軍事転用が可能な精密機器を不正に輸出したとして横浜市にある中小企業の社長ら3人を逮捕し、約11か月もの間身体拘束したあと、公判直前、検察官が公訴取消をした冤罪事件です。
逮捕された社員のひとりは、勾留中にがんが発覚し、無実を訴えたまま亡くなるという取り返しのつかない悲劇まで生んでいます。
なぜこんな酷い捜査が行われたのか。捜査員や関係者への取材や独自入手した資料をもとに追及したNHKスペシャルが衝撃的でした。
捜査にあたったのは警視庁公安部の外事第一課第五係、不正輸出を専門にする部署です。しかし不正輸出の摘発件数が少なく、「このままでは人員を減らされるのではないか」という危機感があったといいます。そこに、手柄をあげて出世をしたいという捜査員個人の思惑が結びつきます。
逮捕した役員を騙して「社長と共謀した」というウソの証言の調書に署名をさせる。事件としては不成立だとする専門家の証言をねじまげる。恣意的に行われた実証実験ーーつぎつぎに暴かれる手口は、あまりに強引、かつずさんで悪質です。
番組の白眉は、この乱暴な捜査を指揮した第五係の係長を直撃していることです。この係長は、同社を起訴した後、警部から警視へと出世をしているのです。
「捜査を見直す機会はあったんじゃないですか」「ご遺族や関係者の方に言葉はないですか」と迫る記者に対して、「うるさいな」「しつこい」と吐き捨てます。反省の言葉はいっさいありません。
この番組でも明らかにしていますが、警察は組織優先で上意下達、異論をいいにくい組織です。救いはそんな組織の内部にも「この捜査をおかしい」と感じ、行動をおこした複数の警察官がいたことです。大川原化工機側に内部告発をしたり、裁判で不当な捜査を証言したりします。
こうした方が守られてほしいと思います。同時に、彼らが声を挙げられる組織に変えなければ、今後も冤罪は防ぐことができません。
番組の終盤、内部告発した捜査員は「非を認め決済をした人、それぞれに責任をとられせる。それができないなら、また同じような事件がおきるであろう」と訴えます。この言葉に、警察はきちんと答えるのでしょうか。
最後に気になったのは、この冤罪を生み出した背景に「経済安全保障」というブラックボックスがあることです。この新しい権益をめぐる経済産業省と公安との不透明な関係については、番組でも触れられています。この闇にも、さらなるメスが入ることを期待したいです。(瀬)
(NHKスペシャル 2023/9/24)