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【諸永裕司のPFASウオッチ】43都道府県の200自治体にPFAS関連企業…対応が問われる経済界の「本音」

フリーランス 諸永裕司

警鐘を鳴らす「汚染マップ」

この地図は、PFAS汚染がヨーロッパの約2万3千カ所に及ぶことを示している。

国境を超えた欧州の16の報道機関が共同して進める「永遠の汚染プロジェクト」が作成したものだ。EU全体とイギリスで、10ナノグラム以上のPFASが測定された約1万7000カ所を赤い点で、消火剤が使われるなどして汚染の可能性が高いところを青い点で示している。

こうした実態をふまえて、欧州化学品庁(ECHA)は昨年2月、すべてのPFASを規制する案を公表した。

<すべてのPFASおよび、またはそれらの分解生成物の主な懸念は、非常に残留性が高いという基準をはるかに超えている>

1万種類とも言われるPFAS類を個別の毒性からではなく、グループとして規制の対象ととらえ、用途別の期限付き例外を設けた上で全面禁止へと舵を切るかどうかを検討している。

規制の対象は、繊維製品・内装・皮革・衣料・カーペット、食品接触材料および包装、金属メッキおよび金属製品の製造、化粧品、消費者用製品類(洗浄剤等)、スキーワックス、フッ素化ガスの応用、医療機器、輸送、電子機器と半導体、エネルギー分野、建築材料、潤滑剤、石油と鉱業の14分野にのぼるという。

使用実態さえ判然としない日本

一方、日本国内はどうか。

環境省は全国調査をしているが、全国各地で新たな汚染が次々と見つかっている。汚染を把握できていないばかりか、使用実態さえわかっていない。

PFASは過去にどこでどれだけ使われ、現在はどこで何が使われているのか。

21日に開かれた参院・環境委員会で、山下芳生議員(共産)が経産省にたずねた。

山下芳生議員(参議院のインターネット審議中継より)

――今、日本国内で汚染が深刻になっているPFOA、PFOSを製造・販売していた企業はどこですか。

「個別の事業者名につきましては、その公表により事業者の競争上の地位を損なうおそれがあるため、公表していないところでございます」

PFOSは2010年に、PFOAは2015年までに製造・使用を終了しており、もはや競争は存在しない。

――独立行政法人「エネルギー・金属鉱物資源機構」の2012年の「フッ素マテリアルフロー」では、どのような企業が掲載されていますか。

「PFASを生産している企業としての記載はございませんけれども、PFASを含むより広い概念であるフルオロカーボン類については、主な企業として旭硝子(注:現AGC)、ダイキン工業、三井・デュポンフロロケミカルが記載されてございます」

このシートに記載され、すでに公表されているほかの4社の社名には触れなかった。

そこで、山下議員は独自に調べたというPFAS使用企業の所在地を明らかにした。

PFASを扱っている企業は少なくとも43都道府県にある――。

全国にあるPFAS関連企業

山下議員の事務所は、PFASを扱う「日本フルオロケミカルプロダクト協議会」「日本フルオロカーボン協会」「日本化学工業協会」「日本弗素(ふっそ)樹脂工業会」に参加している企業を一つひとつ拾っていった。

その結果、PFASを製造または使用している企業は少なくとも43都道府県、200を超える自治体にあることがわかったという。企業名を列記した資料はA4版で8ページにわたる。協会別の内訳は以下のようになる。

  • 日本フルオロケミカルプロダクト協議会  17都府県 28自治体

  • 日本フルオロカーボン協会        15都県 20自治体

  • 日本化学工業協会                            35都道府県 172自治体

  • 日本弗素(ふっそ)樹脂工業会      25都府県 41自治体

山下議員が提出した資料

この資料をみる限り、北は北海道から南は鹿児島まで、島根、鳥取、高知、沖縄の4県をのぞく全国にPFASを製造・使用する企業があることになる。

――PFASの製造・販売・使用をしている、私が今示した企業の生産・使用から廃棄までの適正管理について調査する必要があるのではないか。そして、不適正な管理になっているところがあれば必要な対策を取るよう働きかける必要がある。それは国の責任ではないかと思いますが、大臣の認識をうかがいたいと思います。

質問を受けて、伊藤信太郎・環境大臣が答弁に立った。

伊藤信太郎・環境大臣(参議院のインターネット審議中継より)

「我が国の化学物質管理については、PFASに限らず、化学物質審査規制法等の関係法令に基づき、そのリスクに応じた規制が講じられているところでございまして、企業に対しても関係法令に基づく適切な対応を求めてきたところでございます。現時点において、今回のEUにおける規制案を受けて特別な対応を行うことは考えてございません」

EUの規制案に日本企業や経産省がパブコメ

山下議員は、EUのPFAS規制案に対するパブリックコメントに日本の経済界から多くの意見が寄せられたことも紹介した。総数5642件のうち942件と、日本からが2割近くを占めたという。

パブリックコメントを寄せたリスト マーカーは筆者

このなかには経済産業省や日本経団連の名前もある。経団連がホームページで公表している1700字に及ぶコメントは、こう結論づけられている。

<規制の対象は、経済、社会への影響を考慮しつつ、科学的根拠に基づくリスク評価によって、人の健康又は環境への影響が認められるものに限定するべきである>

そのように経済界が異を唱えるEUのPFAS規制案は、考え方の根本が対照的に違う。

<何もしないことによる社会的コストは、PFASの使用を禁止することによるコストを常に上回る。(略)PFASsの禁止を遅らせることは、健康や環境への影響からコスト負担を将来世代に転嫁することになる>

全国に広がるPFASの汚染源は米軍や自衛隊の基地だけではない。半導体産業の支援に熱を上げる国は、PFAS汚染による健康への影響とコストの負担にどう向き合うのか。この物質を製造・使用してきた企業の責任もまた問われている。

スローニュースでは、少なくとも3年間、PFOAに汚染された飲み水が供給されていた岡山県吉備中央町で、住民27人が独自に血液検査を受けたところ、健康に懸念がある血中濃度のデータが出たことなどを明らかにしている。

諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com

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