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中国が核兵器開発に転用できる工作機械をどのように「かき集めた」のか、OSINTの手法で分析し、日経らしいビジュアルで表現

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

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中国に狙われた工作機械

「農村出身の少年が、模範的な国に貢献する技術者となりました」

小学校の社会科の授業向けにつくられた教材。SNSに公開された投稿は、それだけなら単純な立身出世物語でした。

しかし、その男性が技師として就職したのはCAEP。中国の「唯一無二の秘密組織」で、核兵器開発を主力とする国家機関、中国工程物理研究院だったのです。

男性の業績をたたえる国営メディアの動画や記事、そこに映り込んでいた最先端の工作機械を日本経済新聞の記者たちが分析したところ、とんでもない事実が判明します。

工作機械の特徴や製品型番をアナリストの手を借りて分析したところ、DMG森精機がドイツで生産した5軸加工機「DMU60 monoBLOCK」だったのです。

さらに画像のOSINT(オープンソース・インテリジェンス)だけでなく、公開された入札データから、製品スペックなどを調べることで、どのような工作機械が使われているかを明らかにしていきます。

中国とCAEPには複雑に絡み合ったサプライチェーンが宝の山に映る。グローバル化で、世界の工作機械産業も生産や販売の分散が進んだ。全体像をとらえるのは、どの企業でも難しい。中国はその間隙を縫うように、長年にわたって西側の先端技術に触手を伸ばしていた恐れがある。

こうした調査の結果、対象となった1年半分で、CAEPに技術や部品が渡った可能性のある西側の機械メーカーや部品サプライヤーは80社超にのぼり、調達品のうち、最も多かったのが日本製だったことを明らかに。日経から問い合わせを受けるまで、全く気付かなかったと企業側は語っていました。

巧妙にサプライチェーン管理の隙を突いて、別の企業に民生用途として輸出された工作機械をかき集めているかのような手法を暴いた優れた調査報道。それを通常のテキストで表現するのではなく、最近の日経ならではのビジュアルを駆使して図式化し、スクローリーテリングで紹介するなど表現にも工夫を凝らしています。

部分的には凝りすぎて読みにくい点もありましたが、「なかなか読んでもらえない調査報道」を多くの人にわかりやすく届けたいという試みで、日経が力を入れる新たな調査報道の凄みを感じました。

(日本経済新聞 2023/11/7)