見出し画像

「高校生自殺の真相」「廊下の着替えはイヤ」「ホラーな観光案内」…読者の疑問をガチで調べて解決したローカルメディアの調査報道「受賞作」はこれだ!

西日本新聞が2018年に始めた「あなたの特命取材班」。読者からLINEやメールで寄せられた疑問や困りごとに、新聞社が記者たちの取材力で調べる。そんな課題解決型の調査報道の取り組みが、全国の地方メディアに広がっています。
そして今回、各社が挑んだ調査報道からもっとも優れた記事を表彰をする「JODアワード」が実施されました。いったいどんなスクープが選ばれたのか。たくさんの切実、かつ率直な市民の疑問や悩みと、その解決に挑んだ調査報道からローカルメディアの可能性が見えてきます。
アワードを主催したJODパートナーシップ事務局の福間慎一・西日本新聞記者が寄稿しました。

記者が思いも寄らなかった視点や疑問

住民の疑問解消や地域の課題解決を目指す報道に取り組むローカルメディアで作る連携の枠組み「JODパートナーシップ」は2018年9月に発足しました。JODとは「Journalism on Demand」を略した造語、つまり「読者に応える調査報道」です。

記事の相互提供のほか、合同アンケートなどで連携してきましたが、取り組みのさらなる活性化を目指して今年初めて、地元の課題解決に貢献した記事を表彰する「JODアワード」を創設しました。
 
パートナーシップには現在、全国38媒体(35社)が参加しています。アワードでは「課題解決部門」と、「自由部門」を設けました。

読者の投稿が起点になるJODの記事の中には、記者が思いも寄らなかった視点の疑問や切り口も多く、そうした取材にチャレンジした記事も対象としました。

38媒体が参加

パートナーシップの加盟媒体が任意で各部門1本をエントリー。課題解決部門には12媒体が、自由部門には15媒体が申請されました。選考は記事の書き手たちが記事を選ぶ「選手間投票」的なスタイルです。

投票も任意で▽自媒体以外の記事から①最も高く評価するもの②次に高く評価するもの──を選んでもらいました。①は5点、②は3点として集計しました。上位の結果をご紹介します。

高校生の自殺の真相を1年かけて取材

【課題解決部門】

1位:福岡市の高校2年生が自殺…遺書にいじめ被害記す 学校「重大事態」認定せず、法令違反状態(西日本新聞)

西日本新聞 2023年9月14日

「あなたの特命取材班」への投稿をきっかけに、高校生の自殺を学校が重大事態に認定していなかった問題を報じました。

記者たちが関係者を探すなど地道な取材を重ね特報。当初否定的だった学校側が対応の誤りを認めたり、教育委員会が新たな対策を講じたりするなどの動きが生まれました。

「住民いじめ」や「廊下での着替え」を調査した

2位:京都市の広報物まったく届かず『住民いじめだ』異常事態14カ月…取材直後まさかの結末(京都新聞)

選挙公報などが1年以上届かないという住民の声を受けて取材すると、市が動き2日で解決したという内容。ルポ的にまとめつつ、広報物配布を巡る制度の問題を突きました。

3位:廊下での着替え、おかしいのでは? 「体形や裸見られ恥ずかしい」男子生徒の声受け、高校は「方針転換」(下野新聞)

男子高校生からの問題提起を受け取材、他校では空き教室を利用したり、教室に分かれて着替えたりする学校が大半であることが分かり、男子生徒の高校でも、教室を分けて着替える方針転換につながりました。 

そのほかのエントリー記事は以下の通りです。

学校の給食時間、短くない? 広島市は標準20分 ただ延長は難しい現実も(中国新聞)

「曲がった先に道がない右折レーン」が〝変身〟JOD記事が国を動かした(熊本日日新聞)

始業前の点検って勤務時間じゃないの? 消防職員の働き方、愛知の自治体で差(中日新聞名古屋本社)

名取市デマンド交通、病院線廃止に不安の声(河北新報)

桜、沖縄の各地で狂い咲き、なぜ? 見えてきた「ホルモン」と「台風」の影響(琉球新報)

「早朝タクシー予約できない」(福井新聞)

・赤信号なのに「→」「↑」「←」の3方向の矢印、青信号とどう違うの? 答えは…青信号とほぼ同じ!対向車の停止を強調(新潟日報

はしご操法って、現代に必要?(愛媛新聞)

「かんたん!」どこが?苦情相次ぐ 東京都「018サポート」給付申請 44億円費やしたのにこの不親切さ(東京新聞) 

なぜ広島の観光案内板は「怖い書体」なのか

【自由部門】

1位:ドラゴンボールがルーツ? 広島市内の観光案内板、なぜ「ホラー書体」 SNSで「怖い」「クセがすごい」の声(中国新聞)

中国新聞 2024年3月8日

SNSで上げられていた疑問を深掘りし、書体が選ばれた背景やフォントへの違和感の理由など多面的に事象を捉え、親しみやすく紹介しました。

寄せられた情報から暴力団と祭りの関係が

2位:道後秋祭り鉢合わせ観覧桟敷席に暴力団幹部 県警が確認

寄せられた情報をもとに取材を積み重ね、県内有数の祭りの一つ、松山市の祭りの問題を特報。運営団体が2024年から暴力団の入場を断る決定をしたことも報じたほか、観光PRとして多額の税金を投入する市の姿勢も問いました。

3位:障害者1200人の仕事なくなる!? ヤマト・日本郵便の提携余波 「2024年問題」ここにも(東京新聞)

「2024年問題」の影響でヤマト運輸が一部の配達業務を日本郵政に委託することになった余波で、ヤマト運輸から業務を請け負っていた障害者の雇用が打ち切られることになったことを障害者団体からの情報提供をもとに報じました。

そのほかのエントリー記事は以下の通りです。

日本海中部地震#1~4 「死ぬかもしれない」 揺れ、恐怖…強烈に残る記憶/日本海側に津波はこないと思っていた(秋田魁新報)

22年間休まず診療 神戸・東灘の小児科閉院 院長の中澤さん、がんで声失い決意「全身全霊かけた。やり残したことはない」(神戸新聞)

ハトの巣を撤去したら罰金? 日常に潜む〝危険〟を指摘(熊本日日新聞)

横浜のガソリンスタンド「番豚」は今 長寿の推定17歳(神奈川新聞)

県立学校校長会の経費はPTA持ち!? 宮城県教委、改善検討要請受けても是正せず(河北新報)

シュノーケル 有害玩具? 「健全な育成の妨げ」11県で指定(北陸中日新聞)

「見えない標識」増えてませんか? 文字の剥がれを記者が調べてみると…もはやこれは(琉球新報)

工事現場、警備員の誘導は分かりにくい? 「任意」で決まりなく 誘導だけに頼らない「安全義務」も(下野新聞)

「日野川のかかし、守るは稚アユ」(福井新聞)

「雪がなくなる」高梨沙羅選手が抱いた焦り ニセコの未来どうなる<気候異変 第3部・北の大地 四季の姿は>①(北海道新聞)

「たまたま」と言うけれど 花束贈呈は女性の役割? 新首長就任の九州10自治体に聞く(西日本新聞)

「葛野大路五条 地下工事8年」(京都新聞)

「助けて」の声に応えていきたい

JODアワードは5月31日に福岡市で開かれたJODパートナーシップの全体会合「第5回JOD研究会」で発表されました。

課題解決部門で1位となった西日本新聞記事を取材した報道センターの古川大二記者は「学校でのいじめを巡り、被害者側から報道機関にSOSが寄せられることは少なくないはずだ。ただ、学校側の問題点などを追及するにはそれ以上に時間と労力がかかることを今回、あらためて実感した。それでも取材するか、記者としての覚悟が試されている問題だと感じる」。

同・長田健吾記者はJOD研究会で「これからも読者とのつながりを大切にして、疑問や不安、『助けて』の声に応えていきたい」とそれぞれ話しました。
 
また、自由部門で1位となった中国新聞記事を執筆した報道センター社会担当の向井千夏記者は「広島に越してきて町歩き中に看板を発見し、二度見した。ネットでも同様の違和感を訴える人を見つけ、やっぱりそうだねと思い取材に着手した。言葉にしないまでも身近なところにある違和感やモヤモヤを記事にできてよかった」。

執筆をサポートした馬場洋太デスクは「思いも寄らない視点から寄せられる情報にきちんと反応できる新聞でありたい」と話しました。

読者からたくさんの声が寄せられた 

新聞の部数減は止まらないどころか加速しています。地方では中央紙の取材網縮小が進んでおり、地域の報道を支える担い手として地元紙の責任は大きくなっています。

SNSなどで誰でも情報発信ができる時代ですが、各紙が「知りたいこと、困っていることに応える」という窓を開くと、思いがけず多くの声が寄せられます。

すべての声に応えることは当然できませんが、届く声に耳を傾ける営みを地道に続けることは、ローカルメディアが果たせる、あるいはローカルメディアにしか果たせない、重要な役割かもしれません。

華々しくはなくてもローカルメディアの役割を果たしていきたい 

JODパートナーシップでは、秋田魁新報などを中心にしたデータ報道の勉強会や、地方紙のサブスクリプションに関する知見の共有など、ゆるやかで幅広い連携を進めています。

今回創設した「アワード」についても、各媒体から記事のエントリー基準や部門の設定などで改善が必要な点の指摘があり、協議しながら次回に反映させる考えです。
 
決して華々しくはないかもしれない記事であっても、住民の疑問を解消し、地域が少し良く一助になる──。パートナーシップではそんな報道を相互に評価し合いながら、これからもローカルメディアの役割を果たしていくことができればと考えています。