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データから野党が勝てない理由を考える「蓮舫はなぜ3位になったのか」

                松本健太郎(データサイエンティスト)

今回の都知事選挙、現職の小池百合子知事の圧勝という結果だったが、予想外だったのは石丸伸二候補の躍進と、当初は一騎打ちともいわれた蓮舫候補が3位に終わったこと。なぜ票が伸びなかったのか、野党はなぜ勝てないのか、データサイエンティストでマーケターの松本健太郎さんが独自のリサーチから分析した。データが語る「本当の敗因」はなにか?

2024年7月7日に投票が行われた東京都知事選挙は、小池百合子さんの圧勝で幕を閉じました。筆者は大阪に住民票があるため、この都知事選は無関係だと冷めた目で見ていました。

熱狂を感じる機会もなく、街頭演説にも足を運びませんでした。なんだか、すいません。

意外だったのは「石丸2位、蓮舫3位」ではないでしょうか。5月27日に蓮舫さんが立候補した直後には、「僅差」だとする報道もありました。それから40日で蓮舫さんはジリジリと後退し続けたことになります。

敗因は、選挙のプロである立憲民主党の中の人が詳細に分析されるでしょう。また、在野のジャーナリストの方々も、公開されているデータをもとに様々な分析をされています。

「なるほど」と頷く分析も多いのですが、蓮舫さん自身のキャラクターに論拠を求める結論が少なからずある点は、「それはデータで証明して欲しい」と感じることも少なくありません。

そこで、筆者もデータサイエンティスト兼マーケターとしての知見に基づいて「蓮舫さんはなぜ3位だったのか?」について簡単に分析をしてみようと思います。

支持する政党は?

今回の都知事選の結果を分析するために、セルフ型アンケートツール「Freeasy」を用いてインターネットリサーチを行いました。以下はその条件です。

■実施日:24年7月12日~24年7月14日
■有効回答:7,600人(東京都に本籍を持つ男女18歳~79歳)

有効回答者7,600人の年代別内訳は10代90人、20代804人、30代1,091人、40代1,480人、50代1,711人、60代1,478人、70代946人です。人口比に鑑みても、10代と70代の回答が少ない点は留意して下さい。

まず、有効回答者7,600人の支持政党を確認しましょう。今回の分析では、特定の政党を支持しているか、支持していないかを1つ1つ確認し、複数の政党を支持すると確認できたら、その中から1つに絞る二段階方式を採用しました(※政党はNHK世論調査に倣いました)。

というのも筆者の場合、普段は自由民主党支持(三木武吉さんと大平正芳さん推し)ですが、玉木雄一郎さんのSNSの投稿に触れた日は国民民主党支持に、たまに公明党支持にと、コロコロ入れ替わります。「岩盤支持層」は別でしょうが、大半の有権者も筆者と同じではないかと考えています。

そこで、いきなり「1つ選んでください」と聞くのではなく、まずそれぞれの政党の「支持度合い」を確認すれば、筆者のような「自民と国民と公明を支持している層」の意見もある程度は可視化されると考えました。

(有効回答7,600人)

各メディアの発表する政党支持率と微妙に違う結果となりました。

具体的に言えば、少数政党ほど「強く支持している」+「支持している」を足し合わせたところ「ちょっとだけ支持率高い」という結果になっています。やはり、筆者のような「複数政党支持者」は、他にもいるようです。

ちなみに、複数政党支持者の傾向を確認しておきましょう。

直線的な関係の強さを、 1 から -1 の間で表します。±0.2~0.4だと「やや関係がある」、±0.4~0.7だと「かなり関係がある」とデータを読んで下さい。

複数政党支持の内訳は「自民と公明」「維新と国民」「立憲と共産とれいわと社民」という結果になりました。特に「自民支持層」と「立憲・共産・れいわ・社民支持層」は相容れないことがデータから読み取れます。

では続いて、複数政党支持者含めて1つだけ挙げて貰った結果を確認しましょう。

(有効回答7,600人)

各メディアの発表する政党支持率と比べて、支持政党なし(無党派層)が50%という結果は7%ほど高く、自民党支持が18%という結果は7%ほど低くなりました。回答する際に「自民支持って答えるのはなぁ…」というバイアスがかかった可能性は否定できません。

支持する候補者は?

さて次は、今回の都知事選に立候補した候補者のうち、供託金を没収されなかった小池百合子さん、石丸伸二さん、蓮舫さんに焦点を充てて、有効回答者7,600人が支持する候補者の内訳を確認しましょう。

今回の調査は7月12日~14日に行われました。石丸伸二さんの人を喰ったような態度や蓮舫さんの大惨敗ぶりが報道され、そうした情報が「支持しない」と態度変容を促している可能性が考えられます。

そこで念のため、「投開票日(2024年7月7日)の時点であなたはどれくらい支持していましたか?」と聞いています。

支持率(「強く支持していた」+「支持していた」)は、小池さんが32.4%、石丸さんが19.0%、蓮舫さんが12.9%という結果でした。この傾向は、投票結果にも近似しています。

また、三人の候補全員を不支持(「支持していない」+「まったく支持していない」)と答えたのは有効回答者の13.5%を占めます。上の100%横棒グラフを見る限り、「どの候補者かを支持している人が意外と多い」と気付かされます。

続いて、支持政党別(複数選択式)で支持率のクロス集計を求めます。「回答」とは、有効回答者の中で「強く支持している」「支持している」を選んだ人の合計です。

つまり自民支持層で小池さんが「63.7%」となっているのは、1,686人中1,074人が「強く支持している」「支持している」と回答した、という意味です。

自民・維新・公明・国民支持層は小池さん、立憲・共産・れいわ・社民支持層は蓮舫さん、参政支持層は石丸さんを支持する傾向にありました。また、もっとも有効回答者が多い「無党派層」は小池さんを支持していました。

小池さんを支持するから自民だとか、蓮舫さんを支持するから立憲だとか、そうした因果関係はこのデータだけでは判断できません。ただ、ある程度の党派性による支持層の相関関係は伺えます。

ちなみに、今回の調査は「誰に投票しましたか?」「選挙に行きましたか?」といった質問は、あえてしませんでした。実際には石丸さんや蓮舫さんに投票したのに、当選した小池さんに投票したと回答してしまうバイアスが避けられないからです。

都政に対する満足度は?

今回の都知事選を冷めた目で見ていた筆者は、何が争点だったのかよく分かっていません。「熱狂の渦にいないから」と言われたら、謝ることしかできません。すいません。

そこで、東京都が定期的に実行している「都民生活に関する世論調査」を参考にしながら、争点となりうる19個の東京都政が行っている政策に対する満足度を調査しました。

(有効回答7,600人)

満足度(「満足している」+「やや満足している」)が1番高かったのは「公園・緑地・水辺の整備」で39.5%でした。逆に、1番低かったのは「物価高などの生活対策」で9.4%した。確かに物価高、苦しいです。

もっとも不思議なのは、東京都政が行っている政策に対する総合的な満足度が30.4%と比較的上位だったことです。

つまり、各論を言えば満足はしていないのだけれど、総合的には満足している。この「空気」を前に、各候補は「これが問題だ!」という論戦を繰り広げなければならなかったのです。

ただし、満足度の低い政策を「私ならこうします!」と主張したとして、それが必ずしも支持に繋がるとは限りません。

ビジネスの現場では、お客様からの声に応えても「売上が全然増えない!」という事態はよくあります。

つまり「対応すると売上増に繋がるお客様の声」「対応しないと売上減に繋がるお客様の声」「対応してもしなくても売上に影響しないお客様の声」「対応すると逆に売上減に繋がるお客様の声」があるのです。

そこで、ビジネスの現場でよく使われるサービス品質分析の狩野モデルを用いて、「対応すると支持率が上がる(かもしれない)問題」「対応しなければ支持率が下がる(かもしれない)問題」を明らかにします。

分析手法は簡潔です。東京が抱える代表的な10個の問題に対し、力を入れて積極的な解決に乗り出すとしたらどう感じるか、あるいは力を入れず解決に消極的だったらどう感じるかを、「気に入る」「当然である」「特に何とも感じない」「仕方ない」「気に入らない」の尺度で回答いただきました。

今回は狩野モデルの解説が主ではないので、興味のある方はグーグルで検索していただくとして、結果を共有します。

(有効回答7,600人)

Betterが高いほど「魅力的」すなわち「対応すると支持率が上がる(かもしれない)問題」であり、Worseが高いほど「当たり前」すなわち「対応しなければ支持率が下がる(かもしれない)問題」と言えます。

ビジネスと違い、大半が「速く対応しないと支持しないぞ…」と思われている問題ですが、その中でも「温度感」が大きく違います。

「防災」「生活・暮らし」「政治とカネ」「治安」が上位であり、「中小企業やベンチャーへの支援」「神宮外苑の再開発」が下位です。もっとも「中小企業やベンチャーへの支援」は、各支援団体への関係を考えれば、下位であっても必要な問題なのかもしれませんが。

ちなみに、先ほど掲載した図によれば、「防災」「治安」の政策に対する満足度は高い。このあたりが都政に対して「各論を言えば満足はしていないのだけれど総合的には満足している」理由と言えるかもしれません。

ところが、蓮舫さんが発表した「あなたと次の東京へ。蓮舫7つの約束」を読むと、「防災」と「治安」については「良い政策は発展させる」として、争点にしないと明記しています(少なくとも私はそう読みました)。

都民がより良くして欲しい政策に「防災」「治安」が含まれるのに、それは「今のままで良い」のなら、どうして現職でなく対立候補に投票するでしょうか?

そのあたり、小池さんは分かっているな、と思うのです。「もっと!良くなる!東京大改革3.0」では、1番に「セーフシティ」を挙げています。

何を語ったように思われていたか?

もっとも、「生活・暮らし」「政治とカネ」は争点になり得ました。蓮舫さんも公約で「家賃・物価高騰によって、生活負担が増えている☞子どもが多くいる世帯(住民税非課税世帯)への「家賃補助制度」をつくります」と掲げました。

ただし、どれだけ立派な政策も届かなくては意味がありません。有効回答者らに「それぞれの候補者が「言及していた気がする」「解決策を語っていた気がする」と感じた問題はどれか?」と聞いてみました。

(有効回答7,600人)

「防災」「生活・暮らし」「政治とカネ」「治安」のうち、「政治とカネ」以外は「小池さんが言及していた気がする」「小池さんが解決策を語っていた気がする」と回答した比率が、他候補者に比べて高くなりました。当選した結果をもって後付けで「そう感じた」のかもしれませんし、実際にそうなのかもしれません。

ちなみに、蓮舫さんは「政治とカネ」「子ども」の他に、温度感のかなり低い「神宮外苑の再開発」について言及していた印象を持たれているようです。都知事選に関する報道を真剣に見ていない筆者でも、そのように感じています。

ではなぜ、問題視している人が少ない「神宮外苑の再開発」について、蓮舫さんは選挙戦で訴えたのでしょうか?

筆者が思いつくのはエコーチェンバー(自分と似た意見を持つ人々が集まる場所でコミュニケーションが繰り返され、自分の意見が肯定されることで、その意見が世間一般においても正しく、間違いないと信じ込んでしまう現象)です。蓮舫さんの周囲に「神宮外苑の再開発が問題だ」と主張された方がいらっしゃったのではないでしょうか?

先ほど紹介した、東京が抱える代表的な10個の問題のBetterとWorseの値は、立憲・共産・れいわ・社民支持層に絞ると以下のような結果に変わりました。

(立憲・共産・れいわ・社民支持層1,504人)

全体と比較して、Worseの値がもっとも高まったのは「神宮外苑の再開発」でした。相対的に見ればまだ低いのですが、他候補者よりは「これは争点だ」という声が多かったのではないでしょうか。

もちろん、党派性と政策は切っても切り離せない、と筆者は考えています。

特定の政策を推進して欲しい時、特定の政党を支持することもあるでしょう。逆に、特定の政党を支持する時、その政党が推進している政策が重要だと考えることもあるでしょう。

したがって特定の政党と距離が近付いた場合、漏れなく特定の政策との距離も近付くでしょう。それが選挙協力だと筆者は考えます。

ただし、大多数の都民が「えっ?今それやるの?」と感じるような政策を選んだ場合、100人が味方になってくれても、1,000人が離れてしまうことが容易に考えられます。

ビジネスにおいても、特定のコアファン層に受け入れられる施策を実施した結果、ライトファン層が離れてしまうなんてよく起きます。

「神宮外苑の再開発」など、少数の都民が不利益を被る可能性がある施策には目を瞑ろう、と言っているのではありません。

大平正芳さんが2つの中心があると唱えた「楕円の理論」のように、多数と少数、2つの意見を両方見ることが大事ではないかと筆者は言いたいのです。今回、蓮舫さんは少数にばかり目を向けて、多数を見ておられなかったのではないでしょうか。

「いや、私は色んな声を聞いた」と御本人はおっしゃるかもしれません。では、アンチ蓮舫の声をどれほど聞いたでしょうか。小池さん支持や石丸さん支持の声を聞いたでしょうか。

「自分に話しかけてくれる大半は立憲・共産・れいわ・社民支持層」というバイアスに気付いて欲しいです。その先に、「多数」がいるのです。

蓮舫さん、立憲民主党の皆さんにこれだけは伝えたい

「ホップ・ステップ・肉離れ」と評されたように、与党の敵失によってチャンスを広げ、野党の敵失によってチャンスを潰す歴史がこれまで繰り返された、と筆者は考えています。

例えば今回、「防災」「治安」といったテーマをアジェンダにしなかったことは、明らかな敵失だと考えます。経済政策に左派・右派があるように、防災や治安といったテーマにもアジェンダはあります。「防災は小池さんが頑張っているから」じゃないのです。都民が関心を持っているテーマこそ選択肢を増やすべきです。

他に、「大半の国民は興味や関心が無いのに、特定の支持層が問題にしていること」をアジェンダの前面に押し出すのも止めた方が良いのではないか、と考えます。「自民党を支持しない層(≒無党派層)の支持を得るため」だとしたら、あまり成功してこなかったのではないか、と問いたいです。

今回の分析で明らかになったように、どの政党も「岩盤支持層」と「ゆるく応援層」に支えられています。「無党派層」の実態は、大半が自民党の「ゆるく応援層」ではないか、と筆者は仮説を立てています。もし岸田総裁から若手・女性総裁に代われば、無党派層は減り、自民党の支持率は回復するはずです。

したがって、立憲民主党の皆さんがするべきことは、自民党の「ゆるく応援層」に「立憲民主党なかなか良いね」と感じて貰うことです。

そして「ゆるく応援層」の実態は「多数」であり、今回の選挙で言えば「防災」「物価高対策など生活・暮らし」「政治とカネ」「治安」に関心を持つ人たちです。こうした「多数」と立憲民主党の皆さんは接点を持たれているのでしょうか?

都知事選の反省会でも恐らく「蓮舫さんは攻撃的だから…」みたいな話が出てくると思います。それもあるかもしれませんが、それだけじゃないでしょう。多数とズレている。立憲民主党の皆さんがそのことに気付かない限り、「野党」でも無ければ「ゆ党」でもありません。強いて言えば「ん党」です。

蓮舫さん、私のような政治に興味がない一般的なビジネスパーソンとどんどん飲みにでも行きましょう。間切りのない居酒屋でお酒を酌み交わし、店員さんから「もしかして蓮舫さんですか?」と声を掛けられましょう。

そこから政権交代は始まるんじゃないでしょうか。

(タイトル写真 蓮舫さんのXより)