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世界のデータジャーナリズムトップ10を毎週紹介している調査報道組織 日経の関東大震災コンテンツもランクイン

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

きょうのおすすめはこちら。

データ・ジャーナリズム トップ10: アメリカの賃金不払い、航空機のニアミス、ロシアの頭脳流出、関東大震災

GIJN(世界調査報道ネットワーク)は、世界90か国の組織が加盟し、横断的に調査報道の支援をしている国際的なグループです。多くのジャーナリストがここでテクニックの共有や調査報道を推進するための議論などを行っていて、日本でも報道実務家フォーラムなどが加盟しています。

そのGIJNが、毎週、世界の優れたデータジャーナリズムのトップ10を紹介しています。読んでみると、実に興味深い報道ばかり。

最初に取り上げているのは、労働者への賃金不払い問題を可視化した、プロパブリカとドキュメンテッドによる報道。労働違反に関する2つのデータベースを分析し、不払いがあったニューヨークの事業所をマップ化してます。平均の不払い額なども表示され、それぞれに告発を書き込めるフォームも。これは事業者への強い警告になりそうなコンテンツですね。

一方で、こうした賃金の不払いなどについて、日本ではそもそも公表しているデータベースがありません。だからこうした報道も難しい。情報公開がなければ、弱い立場の市民を守り、民主的な社会の基盤を作ることも難しいということを、改めて考えさせられました。

次に取り上げているのは、ニューヨーク・タイムズによるデータ報道。航空機のニアミスが、一般に知られているよりも頻発していると伝えています。ちょっとしたアニメーションで視覚的にわかりやすくしているところも、デジタルの演出に優れた同紙らしい表現ですね。

この報道は、アメリカ連邦航空局の公表されていない報告書などがもとになっていて、危機一髪の事態が週に複数回発生し、その多くが人為的なミスによるもので、背景には航空管制官の人手不足があることも伝えています。こうしたニアミスの報告書については(全てかどうかは把握していませんが)日本にも国土交通省の航空事故調査報告書があるので、徹底的に調べてみると、何か見えてくるものがあるかもしれません。

さて、編集長が2021年にノーベル平和賞を受賞しながらも、ロシア政府から活動を制限されている「ノーバヤ・ガゼータ」。どうなっているか心配していましたが、「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」として国外で活動を続けているようです。

そちらのコンテンツも取り上げられていました。オープンソースをもとに、過去18カ月でロシアの研究者が少なくとも270人も辞職して国外に出ている実態を明らかにしています。戦争は科学にも大きな影響を与えているのだとか。ちなみに人気の移住先はドイツで、日本は選ばれていませんでした。

そして4番目に取り上げられていたのが、なんとなかなか取り上げられない日本のコンテンツ。日本経済新聞が、ことし9月1日の関東大震災100年に合わせて発信した「再現 首都延焼46時間」です。先日、スローニュースでも優れたデジタル表現として取り上げました。

GIJNの紹介では、「古い公的記録を調べ、関東大地震として知られる運命の日の出来事の年表を再構築し、最初は局所的に発生した火災がどのように首都の40%を巻き込む火災旋風に変わったかを解説。また、将来の地震による被害を最小限に抑えるための教訓も提供している」と評しています。それもそうなのですが、このUIの良さと軽さもぜひ評価してほしいですね。このサイト、英語版も作っているので、海外からも目にとまりやすかったのかもしれません。

もう一点、注目すべきところは、日経の若手が携わって作っているということです。この報道以外にも、たとえば世界の温暖化をテーマにした、評価が高い海外のメディアのコンテンツよりも、彼らが作ったものの方が遥かに出来がいいこともあり、目が離せません。

このほかに紹介されているのは以下の通り。

  • シュピーゲル(ドイツ)高速道路の交通量の実態

  • ルモンド(フランス)熱波のビジュアル

  • エル・パイス(スペイン)議会の年代別構成比

  • Globo(ブラジル)都市ごとの車の色の主流をビジュアル化

  • ターゲス・アンツァイガー(スイス)赤ちゃんの名前の変化

  • ロイター(イギリス)欧州の原発依存度と老朽化

  • サウスチャイナ・モーニングポスト(香港)月探査ミッションの視覚化

11本ありますが、最後の1本はボーナスコンテンツだとのことです。

読者によりよくコンテンツを届けるため、またジャーナリズムの在り方を変えていくためにも、データジャーナリズムやビジュアライズの研究は欠かせないものになっています。(熊)

(GIJN 2023/9/1)