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【社長交代騒動】自社の経営陣を堂々と批判する東洋経済の記者コラムが追及する「メディアの説明責任」

メディアは他人のことは批判するけれど、自分たちのことについてはスルーするどころか、握りつぶしているじゃないかーーという批判をよく聞きます。実際、朝日新聞が自社の姿勢を批判した池上彰さんのコラムを不掲載にしたケースなど、そうした事例は数しれずあります。

そんな中で、珍しく、堂々と自社の経営陣を批判した記事が東洋経済オンラインに掲載をされました。

東洋経済新報社の社員でコラムニストである山田雄大さんが、同社の社長交代を巡る騒動について、社員や読者への説明責任を果たすべきだ、という記事を執筆したのです。

すべての発端は、10月30日に発表された東洋経済新報社の社長交代でした。

田北浩章社長が退任し、会長に就任、取締役執行役員ビジネスプロモーション局長の山田徹也氏が12月から新社長となる人事を取締役会が決定したと発表したのです。

その人事に対し、11月1日に週刊文春電子版が田北社長はクーデターで解任されたのだという記事を配信しました。

その後もこうした報道は続き、東洋経済新報社も「クーデター」ではないとする、下記のような反論も発表しています。

https://corp.toyokeizai.net/news/wp-content/uploads/sites/5/2024/11/20241108.pdf

そんな中で、東洋経済オンラインが掲載したのが、冒頭に紹介した山田さんのコラムです。

あえて、自社を批判する理由について、山田さんはこう書いています。

筆者個人としても、「コラムニスト」という偉そうな肩書きで他社のガバナンスや社長の言動に対して論じており、自社の問題をスルーするのはフェアではない。他社に対してと同じように、何があったかを簡潔に知らせ、批判すべき点は批判する。そうすることが読者、取材先、取引先など大切なステークホルダーへの説明責任を果たすことになると考えるからだ。

記者がSNSなどで自社批判をするケースは朝日新聞や毎日新聞など比較的個人の情報発信が自由な会社ではときおり見かけます。しかし自社のメディアでの掲載という例はほとんどありません。皆無といっていいでしょう。

記者個人だけではなく、それを掲載した編集長などもふくめて組織として判断したことは、東洋経済新報社に自由な言論の雰囲気があり、また説明責任を果たすことで読者の信頼を得ようという姿勢がメディアとして存在することのあらわれかもしれません。

同社の大先輩である石橋湛山元首相につながる骨太なリベラルという伝統が生きているのかとすら感じます。

今後、会社がそれにどう答えるのか、それに対しメディアとしての東洋経済オンラインはどう取り組みのか、注目したいと思います。

説明責任を果たすことは、東洋経済だけの問題ではありません。

先日放映されたNHKスペシャル『ジャニー喜多川”アイドル帝国”の実情』について、出演した元テレビ東京社員の田淵俊彦さんが、この番組がNHKがどこで間違えたかを検証することを狙いとしながら、結局、その責任を退社した職員に負い被せるかたちになったのはなぜか、という論評をプレジデントオンラインで発表しています。ここでいう「中途半端」さは、NHKが本来すべき説明を逃げていることから生まれています。

もちろんNHKの説明責任を現場にだけ求めるのは酷な話で、それに応えるのは経営者の責任です。

「説明責任を果たして」という記者会見でよく飛ぶ言葉に自らが答えてこそ、メディアは信頼を獲得できます。これまでの組織の論理からは難しいことですが、それを乗り越えていかなければ、メディアのコアな価値である読者の信頼を構築できません(瀬)

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