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四日市・キオクシア工場の排水から製造・使用が禁じられたPFOAを高濃度で検出…京大の調査で判明

三重県四日市市にあるキオクシア(旧東芝)の半導体工場から川や海へ放出されている水から、製造・使用が禁じられているPFOAが国の指針値を超える高濃度で検出されたことがわかった。原田浩二・京大准教授が調べた。

取材に対してキオクシアは「工場周辺の河川・海域でPFOAが検出されていることに対して、調査および対策を進めています」などと回答した。

フリーランス 諸永裕司

「PFOAはすでに使用していない」はずなのになぜ汚染が

キオクシアの四日市工場は、東京ドーム約15個分にあたる敷地に、前身となる東芝が建て、最先端のメモリ製品の生産拠点として1993年に操業を開始した。その後、工場内で増設を重ね、現在は第1棟から第7棟まである。2019年に社名が「キオクシア」となった。

キオクシアの四日市工場。半導体製造の拠点として東京ドーム15個分の敷地をもつ

2020年、環境省の全国調査で、四日市市内を流れる海蔵川から高濃度のPFOAが検出された。四日市市は、PFOAは半導体工場などで使われてきたことから、支流の近くに位置するキオクシアに確認したところ、「PFOAはすでに使用していない」との答えが返ってきた。そのため、市はそれ以上、発生源の調査をしていない。

それから3年。

昨年はじめ、地元の住民たちでつくる「四日市公害市民ネット」共同代表の森下裕二さん(76)は汚染源を確かめようと、工場の排水口を調べ始めた。

市環境政策課にたずねると、担当者は「キオクシアの届出によると排水口は2カ所だが、どこにあるかはわからない」と話した。

そこで下水道を管理する河川排水課に情報公開請求をしたところ、工場についての図面が開示された。だが、図面を見ても、排水口の位置は特定できなかった。あらためて担当者にたずねると、「場所は確認していない」と言われた。

キオクシアの工場内の排水経路を記した図面

ただ、工場の建築確認申請書類を見ればわかるのではないかと教えられた。建築指導課で別の図面を見せてもらうと、排水口が2カ所あることがわかった。

工場からの排水は川と海へ

さらに詳しい情報を知るため、森下さんはあらためて市に情報開示請求して関連文書を手に入れた。2本の排水について、次のように記されていた。

<No.1放流口から部田川へ放流>
<No.2放流口から羽津茂福雨水1号幹線(海域)へ放流>

四日市市の開示文書。第1排水は川へ、第2排水は海域へ放流と記載されている(マーカーは筆者)

第1の排水は、環境省の全国調査で高濃度が検出された海蔵川の支流にあたる部田(へた)川に放流されているという。森下さんがあらためて現場を訪ねると、すぐに見つかった。

赤丸の場所に第1排水口がある(©Google)

もうひとつ、第2の排水は「雨水幹線」を通って「海域」へ流れている、と書かれていたが、どこにあるかまではわからない。そこで、工場の設備拡張について審査した三重県公害事前審査会の議事録を手に入れた。

「魚に影響を与えないか」懸念する発言も

2016年12月21日に開かれた審査会小委員会では、第6棟の増設をめぐる審議が行われていた。冒頭、委員のひとりが、河川ではなく公共下水(雨水幹線)を使って四日市港に排水する経緯などをたずねると、東芝側は「四日市市様とご相談のうえ、下水管路を選定した」と答えるにとどまった。

5年後の2021年6月14日の審査会小委員会で、キオクシア(旧東芝)側は下水管を使って排水していた背景を明かしていた。

<(工場からの排水が直接、流れ込む部田川の)流下能力が大きくないということがあって、10年ほど前の豪雨の影響で少し水があふれたということもありましたので、河川ではなく下水路という選択をさせていただきました>

<(工場の)立地的に、排水することができる場所があそこ(海につながる公共下水)しかないということで(略)選択肢がないということと、シミュレーション結果でもあまり影響は大きくないということです。将来的なことはわかりませんが、現在としては影響は大きくないと考えております>

ようするに、第1排水口がつながる部田川は大雨などで氾濫する恐れがあるため、工場増設によって見込まれる排水量の増加に対応するため、第2排水口を市の所有する「雨水幹線」(下水路)に接続させることになったのだ。こうして、PFASに汚染された排水は工場からそのまま海へ流れ出ていたことがわかった。

赤い丸のところに第2排水口がある キオクシアの工場からは南東に5キロ余り(©Google)

このとき、PFASではない化学物質をめぐる議論の中で、委員のひとりから、環境や海洋生物に与える影響について発言があった。

<排水の出口の海面でもボラがたくさん生息しているのが見えました(略)若魚は汽水域にも生息していることを考えると、放流口付近の排水の濃度が濃くなることで、ボラ等に影響を与えることも考えておかないといけないのではないでしょうか>

地元の人によると、海へはきだされる排水口付近ではいまも、小魚の群れが泳いでいるだけでなく、ときにはクロダイなどを見かけることもあり、釣り人が竿を垂らすスポットのひとつとなっている。

三重県公害事前審査会の議事録 魚への影響を懸念する発言も出ていた(マーカーは筆者)

キオクシア側はこう答えている。

<排水先は狭い水域なのですが、水としては入れ替わっているということで、排水中の物質があの場所だけに蓄積することはないと理解しています>

検出された高濃度のPFOA

「市民ネット」では昨年秋以降、第1排水が注ぎ込む部田川と、第2排水の流れ込む海の水を採取して、原田浩二・京大准教授に分析を依頼してきた。その結果、ハイドロPFASが検出されたことは前回の記事で報じた通りだ。

ただ、共同代表の松岡武夫さんらがなにより驚いたのは、すでに製造・使用が禁じられ、規制対象となっているPFOAの濃度の高さだった。最大で、国の指針値の11倍を超えていた。

これまでの分析結果は以下のようになる。

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