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取材した記者の生まれや経歴を詳細に明らかにするニューヨーク・タイムズの新しい試み

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

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ニューヨーク・タイムズが『記者署名欄』に新しいフォーマットを導入する

アメリカの大手新聞社は、記者の署名が入った記事が基本であることはよく知られています。

今回、ニューヨーク・タイムズは、署名記事を書く記者のプロフィール紹介をより詳細にしました(タイトル写真を参照)。その狙いを、編集長と副編集長が明かしています。

”enhanced bios”(強化した経歴紹介)と名付けられたこの試みの背景には、記者がどんな人間で、どんな仕事をしているか、そしてどんな厳しい取材プロセスを経ているかを知ってもらうことで、読者との信頼関係が強化されるという調査結果があるということです。

実際に、新しいプロフィールをみていくと、どんな記事を書いてきたのか、学問的専門分野はなんなのか、どういう経歴なのかが詳しく紹介されています。

たとえば、調査報道担当のブライアン・ローゼンタール記者を見てみましょう。

インディアナ州で育ち、故郷に近い小さな新聞社の皮切りに、いくつもの地方紙を経てニューヨーク・タイムズに来たこと、いくつもの記事でピュリッツァー賞を受賞、もしくは候補になったことがあること、コロンビア大学でジャーナリズムを教えていること、といったジャーナリストとしての輝かしい経歴がわかります。

特に興味深いのは、自分が科学者の息子だというプライベートまで明かし、それゆえ調査報道は科学研究に似ている、仮説と客観的な検証が大事だと信じていると記していることです。背景がわかることで、ジャーナリズムがただのお題目ではなく、彼の人生に裏付けられた価値観であることを感じます。

ニューヨーク・タイムズはオープンAIやマイクロソフトを著作権侵害で提訴するなど、生成AIに対して強い警戒をしています。今回の試みには、今後、生成AIによるコンテンツの量産が懸念される中、記事の背後にいる人間としての記者の姿を強調することで独自の価値を維持していこうという、ニューヨーク・タイムズの姿勢が感じられます。

まだまだ署名原稿の少ない日本の新聞も、ぜひ取り入れてほしいチャレンジですね(瀬)