能登半島地震1年、メディアはどう伝えたか…発災時の知られざる事実や復興の検証など、注目のコンテンツをまとめました
2024年の元日に能登半島を襲った震度7の大地震。あれから1年、メディアは何に着目し、どのように伝えたのでしょうか。2025年の元日とその直前のコンテンツの中から、注目したものを独自の視点でまとめました。
スローニュース 熊田安伸
発災当時を検証して明らかになった事実
現在の観測史上、最大の「震度7」を記録したのは、能登半島地震を含めてたったの6回。いずれも当初はどこが最大被災地なのか、そして被害の規模が判然としませんでした。
能登半島地震でも、石川県輪島市が震度7だったことが3週間以上もわかりませんでした。なぜそんなことになったのか、発災当時のことを毎日新聞が検証しています。詳しい説明は記事を読んでいただくとして、カギはやはり他の地震でも同様の、「データが入ってこない」という状況です。過去に同じようなことが繰り返されているだけに、日本全国で点検や見直しが行われる必要がありそうです。
この検証の過程で明らかになったようですが、内閣府の「地震被害早期評価システム(地震DIS)」が自動で起動して発災14分後に被害を推計し、死者40人、重傷者810人、全壊棟数1万1000棟と算出していたということです。毎日新聞の情報公開請求に対して開示されました。
最終的には直接死の数はその5倍以上なわけですが、発災当初は情報もなく、被害の程度がどれほどの規模なのかがわかりません。その意味では「少なくはない」という警鐘にもなり、こうした知見の積み重ねが将来の災害対応には重要だと思われます。
災害関連死を含め、504人が犠牲になった能登半島地震。救命のラインと言われる72時間に何が起きていたのか。多くの死者を出した輪島市中心部、孤立した町野町、津波に襲われた珠洲市宝立町を舞台に「あの時」を検証したのが、今年の元日の夜に放送されたNHKスペシャル「ドキュメント 能登半島地震 緊迫の72時間」です。
浮かび上がったのは、地方自治体が救助の司令塔にさえなれていない実態、脆弱な救助体制、そして救命の順位を選択せざるを得ないトリアージの厳しさです。
亡くなった人のうち、救助を待っていた人は分かっているだけで48人。そのうち少なくとも15人は、救助要請の時点で生存していたことが取材で浮かび上がりました。このうち、町野町では唯一の命綱だったアナログ電話(停電でも通話ができる)に一般からの問い合わせが殺到してしまって、役場から外部に救助要請ができなくなっていました。「この番号はつながる」とSNSで拡散されてしまったため、町の内外からの電話が次々とかかってきていたのです。こんなことが起きていたとは。
しかし、自治体が司令塔の役目を果たせないことなどは、過去の災害でも起きていたことです。あれだけのサンプルがありながら、なぜ体制が取れていなかったのか。そして一刻も早く、改めて全国各地で、そして国レベルで体制を整えなければならないと強く感じさせる番組でした。
また、今回の問題を後世に残そうと、自分の辛い体験を切々と語ってくれた住民や、救助ができなかった現実を真摯に語ってくれた役場の職員や消防団員、医師などには、感謝の気持ちしかありません。
復旧はどこまで進んだのか
復旧・復興についての記事は数多く配信されました。エモーショナルな記事、データを並べただけの記事も目立ちますが、現地での詳しい取材と合わせて、データだけでは分からない課題を浮き彫りにした朝日新聞の12月30日の記事が出色でした。
例えば、国や石川県の発表では、復旧困難な場所を除けば断水は100%解消したとされています。しかしこの記事では、発表をそのまま伝えるのではなく、住民からの相談件数から「事実上の断水が続いている」実態を浮かび上がらせています。なぜこんなことになるのか。実は私自身が取材した過去の災害でも、これと全く同じような数字の食い違いが起きていました。メディアはそれをこそ、伝えるべきです。詳しい内容は有料部分になりますので、そちらをお読みいただくとして、このほかにもデータと現地取材を組み合わせて、被災地の苦境とその問題点をわかりやすく伝えている良記事となっています。
以下の2本も、データを主軸としながら現地の状況を詳しく伝えています。
こちらの読売新聞の記事はデータだけにとどまってはいますが、独自の取材で被災地の事業所の休廃業が4分の1にのぼっていることを明らかにしています。
データ報道ではありませんが、輪島市の孤立した集落は、このままでは復興は不可能と考え、「集団移転」を実現させようとしていました。住民たちはどのように動き、何が障害となっているのか。それを丁寧に追跡したYahoo!特集は、被災地の現状と課題を浮かび上がらせる読み応えがあり、考えさせられるものでした。
今後の防災のために
日本海側の16道府県が策定する地域防災計画で、海底活断層が引き起こす津波の想定はあるものの、地震の揺れを想定していないケースも相次いでいることが毎日新聞の取材で明らかになりました。能登半島地震は、海底活断層が震源になったとみられていますが、地震の想定をしておらず、被害を過小に見込んでいたことが分かっています。
石川県の地域防災計画がどのように作られたのかは、日本記者クラブが発災1カ月後に開いた記者会見で金沢大学の青木賢人准教授がその問題点も含めて詳しく語っているので、記事とあわせて聞くと納得できると思います。防災計画のさらなる見直しが必要なようです。
さて、能登半島地震では、各地で住民の「孤立」が起きましたが、発生当初はどこにどれほどの孤立が起きているのかが把握できず、十分な支援の手も届きませんでした。
これを教訓として、中日新聞は「あなたの地元は大丈夫? 災害時の孤立予想3698集落マップ」を発災から7カ月後の6月27日に配信しています。
ただ、これは北陸や中部などの7県を対象としたものでした。そこでNHKは、さらに独自の分析を加えて、12月27日に「全国孤立可能性マップ」をローンチして改めて注意を呼びかけました。
メディアが発信したコンテンツのリレーは更に進化し、より意味があり、役立つものになっていきます。その意味で言うと、以下のケースもそういうものなのかもしれません。
NHKは、出水期の前の7月2日に、「仮設住宅42% 浸水や土砂災害リスク 能登半島地震」という記事を配信して警鐘を鳴らしました。その予言通り、9月に能登では、「二重被災」と言われる浸水の被害が発生してしまいました。
朝日新聞は12月30日に、「南海トラフ仮設、二重被災の恐れ 2万7千戸、大雨洪水で浸水リスク」という記事を配信しました。解決は難しいものの、これも重要な指摘です。
災害列島・日本では、事前防災が改めて重要だと感じています。
サービスジャーナリズム
発災直後、各メディアの発信をウオッチしていましたが、生活情報の提供はYahoo!やNHKのようなメディアが先行し、圧倒している感じでした。地元メディアで、誰にでも分かりやすく手厚く伝えているところは、震災の混乱もあってか、見当たらないのが実情でした。(もしここはやっていたよ、というところがありましたらご教示ください)
一方で、発災から1年がたっても継続しているところは多くはありません。ここにきて、地元の北國新聞は丁寧に伝えている印象です。地元紙としては重要な役割ではないでしょうか。
ニュースと被災地の具体的な支援方法を合わせて発信しているのが、LINEヤフーと読売新聞、文化放送が共同で取り組んでいる「みんなで支えよう能登半島」です。Yahoo!らしいデータの分析から、被災地への寄付や「買って支援」、そしてボランティアまでセットで伝えるコンテンツです。これも今まで無かったような取り組みで、どのような効果を上げたのかをぜひ聞いてみたいと思います。
他にもコンテンツはさまざまにありますが…
このほかにも、発災から1年になる被災者、遺族の姿を描いたコンテンツはさまざまあります。多すぎて逆に敬遠してしまうかもしれませんが、中には胸を打つものも数多くあると思います。時間が許せば、じっくり読んでみてはどうでしょうか。
今後も報道は続くと思いますので、ウオッチしていきたいと思います。