下町やオフィス街に眠る記憶と人をアートでつなげていく東京ビエンナーレ2023
あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、時間をかけて取材したコンテンツをおすすめしています。
きょうのおすすめはこちら。
東京という街の歴史や記憶、人をつなぐ「東京ビエンナーレ2023」が開幕
各地域で公共空間などを利用して開催される美術展、トリエンナーレやビエンナーレも日本に定着してきました。
東京でも、千代田区、中央区、文京区、台東区のおよそ40か所で作品を展示する「東京ビエンナーレ2023」が11月5日まで開催されています。『
今回で2回めとなる東京ビエンナーレ。作品の多くは、街なかにある歴史的な建築物や公共の空間を活用して展示されています。
そのひとつ、関東大震災後の復興期に建てられた神田の看板建築「海老原商店」で展開しているアーティスト・西尾美也による「パブローブ:100年分の服」プロジェクトを見学してきました。
ここでは、1900年代初頭から現在まで100年以上の歴史にわたる服が集められ、それぞれにまつわるエピソードを書いたカードとともに展示されています。さらに、これらの服を鑑賞者が借りてかえることもできる「服の図書館」のようになっています。
中には戦時中の「国民服」がきれいな状態で保存されているのには驚きました。そこにつけられカードには「私の父親の品です。母は数回の引っ越しも必ずこの服を持って行きました」と記されていました。
東京ビエンナーレ2023のテーマは「リンク」。総合プロデューサーである中村政人・東京芸術大学教授に聞いたところ、「服を保存していた人の思いや町のもつ記憶が時代を超えてつながってきますので、実際に着て歩いてみてほしい」と、その狙いを明かします。
ほかにも、神田の有名看板「顔のYシャツ」を利用したアート(タイトル画像真ん中)や、メイン会場である日本橋・エトワール海渡に展示される日本橋川にミニ伝馬船1万艘を浮かべるコミュニティアート(同右)など、見るだけではなく参加できるプロジェクトも豊富です。(瀬)
(美術手帖2023/9/24)