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「ロシアよりフェイクを込めて」ジャーナリストの登場と死まで演出した偽情報…危険なナラティブ(物語)が増殖中

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

きょうのおすすめはこちら。

From Russia, Elaborate Tales of Fake Journalists(ロシア発、偽ジャーナリストの巧妙な物語)

ムハンマド・アラウィ。調査報道記者の名前だといいます。

その男性の「スクープ」がYouTubeに投稿されたのは、去年の8月。ウクライナのゼレンスキー大統領の義母がリゾート地に別荘を購入したという内容でしたが、後にそれがフェイクであることが発覚します。

しかし話はそれだけで終わりません。ムハンマド・アラウィが撲殺され、犯人はウクライナのシークレット・サービスのエージェントらと見られるという動画が投稿されたのです。

動画を調査した研究者によると、話の出どころはロシア。フェイクにも関わらず、最初の投稿で広まり、さらにその後の投稿でも蒸し返されて拡散しました。

ニューヨーク・タイムズの記事は有料なので、詳細はそちらで読んでいただくとして、今やフェイクが単純な嘘ではなく、実に巧妙に練り上げられたナラティブ(物語)で発信されているという危機感を伝えています。

にわかには信じられないような展開があったほうが、だからこそ真実なのではないかと人は考えてしまうもの。普段は疑り深く慎重な人でも、自分は大丈夫だと思っているからこそ、「刺さる」ものがあるとスポッと信じてしまうことってありますよね。

ナラティブの持つ力については、毎日新聞の大治朋子さんが『人を動かすナラティブ なぜ、あの「語り」に惑わされるのか』(毎日新聞出版)にまとめていますので、関心のある方はこちらもどうぞ。

そしてどれだけ当局に否定されても、他のメディアにファクトチェックされても、結局は拡散してしまい、一定の浸透をしてしまう。ぬぐい切れない。今回のケースを見ても、ナラティブによるフェイクは攻撃する側が圧倒的に優位なポジションにあることが分かります。

防衛研究所のリポートでは、「ナラティブを巡る戦いとは、不可視の銃弾が飛び交う、仮想領域及び認知領域における戦いの一部に他ならない」とまでも指摘しています。

ニューヨーク・タイムズの記事を日本語でお読みになりたい方には、朝日新聞が翻訳記事を配信していますので、そちらをどうぞ。

生成AIによって動画が画像のフェイクが問題視されていますが、AIにはAIで対抗する策も研究されています。一方でナラティブという心を狙うフェイクは、それ以上に厄介な問題を抱えていそうです。(熊)

(The New York Times 2024/3/18)