日本兵1万人の遺骨が行方不明の謎に挑む『硫黄島上陸』
膨大なニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。
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『硫黄島上陸 友軍ハ地下二在リ』
太平洋戦争末期、米軍が上陸した1945年2月19日から始まった「硫黄島の戦い」は、守備隊2万3000人のうち2万2000人が亡くなるという壮絶な戦闘で知られています。
それから、80年近くが経ち、遺族による遺骨収拾団の訪問が繰り返されてきたにもかかわらず、2万人をこえる戦死者のうち1万人の遺骨がみつかっていません。それはなぜなのか。
北海道新聞記者である酒井聴平氏が、執念でその真相に迫ったノンフィクションが『硫黄島上陸 友軍ハ地下二在リ』です。
硫黄島は戦後日米の軍事拠点となり、民間人の上陸は原則禁止されています。報道関係者も簡単には上陸できません。祖父が硫黄島関係の部隊に所属していた筆者は、その遺族として遺骨収拾団に4回にわたり参加し、暑い島で遺骨を掘る作業に邁進します。その間に膨大な公文書や関係者に当たり続けます。
「謎」の答えは本を読んでもらうとして、筆者が体験した硫黄島の地下を人の力で掘っていく作業が、いまも命の危険と紙一重であることに驚きます。
たとえば、遺骨捜索のときに使用されているスコップは、旧日本軍が使用していたそのものです。レプリカではなく、本物です。それは市販のものより狭い壕の中では振るいやすいからだということです。
また菅直人元首相が厚労大臣時代から遺骨捜索の推進にこだわり続け、菅直人首相時代にもっとも収集活動が盛んだったということも、初めて知りました。
暑い夏に、まだ終わらぬ戦争について考えさせられるノンフィクションです。(瀬)