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排気ガスの浄化装置でも相次いだトラブル【スクープ連載『デュポン・ファイル』第10回】

国際機関から発がん性を指摘されている有機フッ素化合物の「PFOA(ピーフォア)」。三井・デュポンフロロケミカルの清水工場(静岡市)で半世紀以上にわたって使われ、工場の内外を汚染していた。その工場内の極秘データが収められた「デュポン・ファイル」を入手。5万ファイルに及ぶ膨大な資料を紐解きながら、「地下水汚染」「排水汚染」「大気汚染」「体内汚染(従業員)」の実態を4週にわたって描く調査報道シリーズの連載第10回。

前回は排気ガス放出の実態と、対応策として浄化設備がどのように設けられたかを明らかにした。しかしその浄化設備にも、トラブルが相次いでいた。

フリーランス 諸永裕司


爆発防ぐために大気へ放出

その事故は、PFOA(通称C-8)を使う工程で繰り返し起きていた。

現場はDプラント。ガス浄化装置の能力不足から排ガスの一部が大気へ放出されていた、と前回書いた場所だ。日常的な放出だけでなく、重大事故も起きていたのだ。

「清水工場報告会」と題された2007年の記録に、目立つ赤い文字でこう記されている。

このプラントで働いたことのある元従業員などによると、R/Dとは、あらかじめ設定した圧力になると作動する、破裂板という安全装置を指す。つまり、原料のTFE(テトラフロロエチレン)にPFOAを混ぜる釜の中であらかじめ設定していた圧力を超えてしまったため、安全装置である破裂板が破裂した。その代償として、TFEが大気に放出されたということだ。

「PFA&FEP製造工程(09年度新入社員教育資料)」より

三井・デュポンフロロケミカルが設ける「MDF基準」で「重大ヒヤリ」とされる事故だ。記録では、2003年と2005年に続き「ほぼ2年毎に起きている」と指摘されている。それより前の2000年には爆発事故も起こしていた、と元従業員はいう。

同様の事故が起きているという「WW」とは米ワシントン工場(ウェストバージニア州)のことで、映画「ダーク・ウォータズ」の舞台となった。清水工場の担当者は調査を進めるとしているものの、PFOAを含むとみられる有害物質が「緊急的措置」として繰り返し放出されていたのだった。

Dプラントでのモニタリング箇所を示す資料(2009年)

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