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サイコパスな上司、恋愛社会学、フェイクドキュメンタリー…10月の気になるノンフィクション

古幡 瑞穂

いつまでたっても夏が終わらない、と言っているうちに日本列島を覆ったのは強烈な雨雲。各地で大きな被害が起こり、気候変動への取組みが待ったなしなのを感じます。最新技術が、歴史がそれらを防ぐヒントを持っているのか、本に答えがあるかもしれません。

一方、日本もアメリカも選挙シーズンまっただ中。関係する気になる本が目立っています。10月にはどんなノンフィクションが発売されてくるのでしょう。

『カルトのことば:なぜ人は魅了され、狂信してしまうのか』
アマンダ・モンテル (著), 青木音 (翻訳)

いま“言葉”をめぐる本が人気です。『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』などベストセラー、ロングセラーになったものもいくつも。そんな中、言葉の悪い側面に注目したこちらが気になりました。

宗教だけでなく、マルチ詳報やフィットネスジム、ソーシャルメディアなどといった様々なカルト的なコミュニティの調査から言葉で人々を支配するからくりを明らかにしていきます。言語を道具にして、どうやって人を呪縛していくのか?その謎が明らかになります。

なぜ?という本からもう1点

『なぜ悪人が上に立つのか: 人間社会の不都合な権力構造』
ブライアン・クラース (著), 柴田裕之 (翻訳)

政治家の不祥事、企業トップの不祥事が日々報じられますが、そもそもトップに立った「悪人」はもともと悪人で、悪人というものは権力を求めるものなのでしょうか?

それとも、出世したから人が変わってしまったのでしょうか。
堕落した政治家、会社にいるサイコパスのような上司、これらの存在理由を進化論や人類学、心理学などを駆使して読み解いていきます。

『狂人たちの世界一周』
ピーター・ニコルス (著), 園部哲 (翻訳)

1968年に「ゴールデン・グローブレース」というヨットレースが開催されました。ヨットで、無寄港で世界一周をする、しかもこの時代のことですから通信衛星もなし、GPSもなし、という環境…というあまりに無謀なレースです。優勝賞金は5,000ポンド。これに挑んだのは9人。

どう考えても完遂が難しそうですが、最終的には1名がゴールする結果になったそうです。とはいえ、他の8人は脱落するだけでなく、人によっては遭難し、失踪という人も。(驚いたのはこの無謀なレース、現代でもまだ続いていました)

命がけの無謀なレースに挑んだ理由、そして彼らの過酷な航海の模様。海モノノンフィクション好きには堪らない1冊でしょう。

『人類の都: なぜ「理想都市」は闇に葬られたのか』
ジャン=バティスト・マレ (著), 田中 裕子 (翻訳)

著者は『トマト缶の黒い真実』でグローバル経済の実態を描いたジャーナリスト。(ちなみにこの方、アマゾンの配送センターに潜入取材をして内部事情を告発、フランスでベストセラーになったという過去もお持ちです)

20世紀初頭に、〈世界の首都〉構想が立てられたことがあったのだそうです。科学や芸術、スポーツなどの様々な叡智をひとつの年に集結させ、それを通じて世界平和を実現していくというのがその構想だったそうです。

熱狂的に支持された時代はあったものの、残念ながらその夢は潰えました。ユートピアをつくろうとしたこの思想、裏ではムッソリーニやヒトラーといった独裁者たちが強く関心をもっていたようです。

ユートピアがファシズムに利用されたのはなぜだったのでしょう。幻のユートピアをめぐる歴史ノンフィクション。

『人類の祖先に会いに行く: 15人のヒトが伝える進化の物語』
グイド・バルブイアーニ (著), 栗原 俊秀 (翻訳)

ルーシーやアイスマンなど、進化史に大きな足跡を残した人類の祖先15人。最新の技術によって、精巧な復元が可能になりました。

そうやって蘇ってきた在りし日の姿、彼がどんな生活をし、どんな人生を歩んできたのかをひとりひとり追体験するというリアルな1冊です。彼らの生活は私たちとどれくらい違い、どれくらい同じなのか。330年前から200年前のチャールズ・ダーウィンまでを振り返ります。

『恋愛社会学: 多様化する親密な関係に接近する』
高橋 幸 (編集), 永田 夏来 (編集)

先日観たある映画について、主人公の男女が危機対応を通じて恋愛関係にならないことに気づきました。これほどの吊り橋効果があるにもかかわらず、です。友人にも同じような事を考えている人がいて、「あぁこれこそが社会が変わってきているということだな」と感じたのです。

これだけでなく「恋愛」というのは、様々な形で関わることになるものですが、形は大きく変化してきています。結婚や性の話だけでない親密な関係を読み解く、始まったばかりの学問が「恋愛社会学」です。こちらはその入門書とのこと。

『フェイクドキュメンタリーの時代: テレビの愉快犯たち』
戸部田 誠(てれびのスキマ) (著)

最近、フェイクドキュメンタリーと名がつく本が増えてきました。嘘を前提にしながらも、事実であるかのように見せるジャンル。大ベストセラーになった『変な家』などもこの部類に入るのでしょうか。

しかし考えてみたら、テレビにおいて「やらせ」は御法度。だのになぜこんなジャンルが許されるのでしょうか。その端緒には03年の『放送禁止』というテレビ番組があるようです。

“分かりにくく、正しくない番組”を世に放つ愉快犯たちとの闘いに迫る(これは)ノンフィクション。「フェイクドキュメンタリー(的)テレビ番組年表」も気になります。

あわせてこちらも。

『このドキュメンタリーはフィクションです』
稲田 豊史 (著)

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この他、来年の大河ドラマに向けて蔦屋重三郎の本や、没後10年となった高倉健の関連書なども多く出版されてきそうです。10月の書店店頭にご注目ください。


ふるはた・みずほ 日販→出版社勤務。これまで、ながらくMDの仕事に携わっており、各種マーケットデータを利用した販売戦略の立案や売場作り提案を行ってきた。本を読むのと、「本が売れている」という話を聞くのが同じくらい好き。本屋大賞の立ち上げにも関わり、現在は本屋大賞実行委員会理事