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「地域メディアをなくしてはいけない」廃刊した地方紙の記者たちが市民とともに発信する「NEWSつくば」の挑戦

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

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NEWSつくば

かつて茨城県のつくば市や土浦市のエリアで展開していた日刊紙の「常陽新聞」は、経営悪化で2017年3月に廃刊しました。

しかし、「地域からメディアがなくなるのを防がなくては」と、記者たちがその7か月後に立ち上げたのが、ウェブメディアの「NEWSつくば」です。

つくば、土浦地域のニュースを毎日2~3本提供していますが、「生活者の身の回りで起こっていることこそが地域のニュースだ」として、生活者目線からの発信を続けています。例えばつくば市にある自治会の改革と取り組みを追った「シルバー団地の挑戦」という、スコープを徹底的に絞った連載がありました。

もう一つの特徴は、元常陽新聞の記者たちだけでなく、市民にも記者になってもらっていること。希望する人は誰でも受け入れ、記者養成講座を開いているということです。

とはいえ、記者の仕事は「副業でやるには、思ったより大変」です。この6年半で約40人の入会申し込みがありましたが、半数が退会。現在は18人の構成で、半数は記者やフリーライターの経験者ですが、残る半数は教員や公務員、大学生などの未経験者だということです。

どんな発信があるかというと、例えば霞ヶ浦に流入する桜川の環境を守ろうとしている地元漁協の活動を追う年間連載「桜川と共に」。不法な廃棄物の撤去や、アユの産卵床の造成などの取り組みを取材した記事の他にも、アメリカナマズなどの駆除対象の特定外来生物を、つくば市内の「ガチ中華」の店で提供するユニークな試みなどを報じています。これ、食べてみたいですね。

課題もあるようで、やはり一番は「持続可能性」。NPO法人の形で運営し、主な財源は常陽新聞時代からのクライアントによるバナー広告の収入。あとは記者のボランティアで成り立っているとか。今後、新しい課金モデルなども検討したいとのことでしたが、やはりメディア運営の道は厳しいですね。

もう一つは、権力監視ができるような調査報道を市民記者ができるかというと、なかなか難しいこと。やはり育てるには時間がかかるようです。

でも、千里の道も一歩から。最初に新聞というものが始まった時も、同じようなものだったのではないでしょうか。形態としては、まさにいま世界中で挑戦が繰り広げられている「エンゲージメント・ジャーナリズム」。活動を応援したいし、自分自身でもこういうメディア、挑戦したくなってきました。(熊)