川崎重工が潜水艦部隊の物品や飲食を裏金で負担か…久々にお目にかかった「ザ・国税スクープ」の力強さ
あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。
きょうのおすすめはこちら。(※サムネイルは川崎重工のHPと©Googleより)
川重、裏金で海自潜水艦部隊の物品多額負担か 大阪国税局が調査
かつては国税当局の調査が入れば、新聞の1面トップになるという時代がありました。それほどに企業や政治家、各種団体や個人の闇の部分に切り込んで行ける組織が、国税当局です。既存の法では裁けず、司直の力が及ばなかった時にも、カネという足跡を残しやすい側面から突破口を開いてきました。
そんな国税ネタらしいスクープ記事を久々に読んだという感慨を抱いたのが、こちらの記事。川崎重工業が潜水艦の乗組員らに対し、架空取引で捻出した裏金で物品や飲食代を負担していた疑いを朝日新聞が報じています。大阪国税局の税務調査で十数億円の裏金作りを把握し、重加算税を含む追徴税額は少なくとも約6億円に上るとか。
翌日にはすぐさま続報が。裏金づくりは20年前から始まっていたといいます。書いたのは市田隆さん、おお、国税取材のベテラン記者ですね。
ただこの問題、「川崎重工が悪い」と終わらせられない難しさがあります。それというのも、日本で潜水艦を建造できるのは、川崎重工と三菱重工の2社だけで、隔年で交互に潜水艦を建造しているという実情があるからです。しかし、だからこそ緩み、驕りがあったのかもしれません。「たかりの構図」があったとまで記事では指摘されています。
裏金をねん出していたのなら、その分は何かに上乗せされていたはずです。そのあたりの解明はまだ十分にされていません。「最終的に税金から支払われていたことになりかねない」と指摘する専門家への意見も紹介しています。
川崎重工は「防衛省への過大請求は現時点で確認されていない」としているようですが、今後の特別防衛監察などでどのような結果が出るか、注目です。
こうした「他社が代替しがたい事業」で不正が発覚すると、「他に発注先がないので仕方ない」などとして、結局は国との契約も元のままでずるずるといってしまうケースを見かけますが、事は多額の税金に関わる話ですので、国民の納得がいくような目に見える何らかの処置はしてほしいところですね。
そして国税は「発表のない当局」です。眠っているはずの国税スクープ、もっと掘りだしていきましょう。(熊)
(朝日新聞 2024/7/3ほか)