突如として始まった曝露防止策に従業員たちから反発も【スクープ連載『デュポン・ファイル』第13回】
国際機関から発がん性を指摘されている有機フッ素化合物の「PFOA(ピーフォア)」。三井・デュポンフロロケミカルの清水工場(静岡市)で通称C-8として半世紀以上にわたって使われ、工場の内外を汚染していた。その工場内の極秘データが収められた「デュポン・ファイル」を入手。5万ファイルに及ぶ膨大な資料を紐解きながら、「地下水汚染」「排水汚染」「大気汚染」「体内汚染(従業員)」の実態を4週にわたって描く調査報道シリーズの連載第13回。
「PFOA全廃」の方針が決まった時、従業員の曝露を防ぐための取り組みが慌ただしく始まったことが内部資料からは読み取れる。どんな衛生管理が行われたのか。そしてそれに対する従業員たちからの反発とは。
フリーランス 諸永裕司
「C-8放出の可能性がある作業」は13種類
工場内で従業員はどのようにPFOAに曝露するのか。その経路をまとめた、「PFOA曝露低減活動」と題された資料(2007年10月)があった。
こうした認識のもと、会社は従業員の曝露を減らす取り組みをはじめた。
「PFOA exposure reduction activities at Shimizu site(PFOA曝露低減活動報告)」(2008年2月)という資料には、血液検査にとどまらず、作業環境の実態調査など細かい項目が挙げられている。
そのひとつに、清水工場で、PFOAを扱う11のプラントでの空間濃度調査がある。AELという管理基準を超えた地点が以下のように赤枠で囲まれている。最大値の891mg/㎥、管理基準の89,100倍というきわめて高い濃度は、C-8の水溶液を貯蔵する施設(C-8 Receiver Tk Room)で検出されていた。
また、「換気が十分できるようにする」「清掃を十分に行う」「排水溝に蓋をつける」「タンク内の空気が外に出るようにする」などと、プラントごとに改善策が示されている。
同時に、「Wipe test」と呼ばれる付着物の調査では、ドアノブの取手や階段の手すりなどから高濃度で検出され、検出場所が見取り図や写真入りでまとめられている、そこには、配管の継ぎ目にあるフィルターから排ガスが漏れている箇所も含まれていた。
さらに、工場は労働環境の実態を把握するだけでなく、従業員の安全管理にも乗り出していた。対外的には一切明かされていないが、できるだけ体の中に取り込まないよう、職種や業務ごとに作業にかかる時間を記録していた。
もっとも短いのは、液体のフッ素樹脂製品をつくるプラントの運転員の作業で、1回あたり15〜20分。また、排気ガス洗浄装置にたまる廃ポリマーを扱う作業は1回30分などだった。裏返せば、それだけ曝露量が多いことを意味している。
また、「C-8放出の可能性がある作業」として13種類が抜き出されてもいた。