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道頓堀の「あの写真」を撮った若いカメラマンのプロとしての覚悟と準備

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プロ野球阪神が18年ぶりにリーグ優勝した夜、道頓堀で起きた「アレ」、どないして撮ったん? 担当カメラマンに聞きました

写真は一瞬を永遠に変える力があります。

18年ぶりの阪神タイガース優勝。その歓喜を伝えるこの1枚の写真が話題になりました。

撮影したのは共同通信大阪支社のカメラマン。同社のX(旧ツイッター)やインスタグラムなどSNSに投稿されると、またたく間に拡散しました。米ニュースメディアABCのアカウントでも、”JUMPING FOR JOY” 、“the Dotonbori River”などとポストされ、世界中に広まりました。

大阪道頓堀で飛び込むファンの満身の笑みは、興奮に沸き返る大阪の街の雰囲気を伝えてきます。スポーツをこえた社会現象であることを、雄弁に語ります。

もちろん、道頓堀での飛び込みは禁止されています。過去に死者を出したこともあり、大変危険です。絶対にしてはいけません。また、それを煽るようなことはいけません。この写真についても、「飛び込みを助長するのか」「危険行為を煽るのか」という批判もSNSなどで広がっています。

伝えたかたには、煽らないように十分な配慮は必要でしょう。ただ、そこでおきた事実を伝えることには、歴史の記録者として意味があります。

戦場カメラマンだったロバート・キャパが残したこんな言葉があります。

The pictures are there, and you just take them.

「写真」はそこにある。私たちは、ただそれを撮るだけだ。

この場面に立ち会ったカメラマンはプロであるならば誰でも、その瞬間、シャッターをきろうとするでしょう。その時間を切り取り、記録として残すことは価値があります。

私は、この写真をはじめて見たとき、完璧ともいえるアングル、抜群のタイミングの背後には相当な準備とプロのスキルを感じ、これを撮ったカメラマンがどんな人か知りたいと願いました。

そんなときに共同通信が、その撮影のウラ側をnoteで公開をしました。

写真は共同通信・大阪支社のnote。クリックすると同社のnoteに飛びます。

撮影したのは、松嵜未来(まつざき・みき)カメラマン。2019年に入社し、福島支局、本社写真映像部などで勤務し、大阪支社には2020年に赴任した若手の女性です。

松嵜さんの紹介は、共同通信の採用サイトにあります。そこにある、

写真は勝ち負けがはっきりしているなと、いつも感じます。

という言葉に、「やはり、こういう人か」と納得しました。仕事にかける覚悟や執念が伝わってきます。

以前、写真週刊誌『FRIDAY』で仕事をしていたこともある私は、一瞬を逃さないカメラマンたちの仕事ぶりを見て、彼らはスポーツマンだと実感しました。

決定的な一瞬を逃すことを許されない仕事です。その一瞬のために、事前にロケハン、場所の確保、アングルの検討、照明の準備、被写体の動きの予想、食事やトイレの時間など用意周到に準備をしています。日頃のトレーニングもかかせません。

そこまでしても、運もあります。今回の撮影も、遊歩道から撮影するカメラマンが炊いた「もらいストロボ」が、光量を補い、最高の一瞬を捉えることができたそうです。

その運をつかめたのは、万全の準備があったからです。

そんなプロの覚悟と迫力を感じる1枚の写真でした。

もちろん、今後、クライマックスシリーズ、日本シリーズ、そして来年以降、タイガースの快進撃が仮に続いたとしても、決して、道頓堀には飛び込まないように強くお願いします(瀬)

(共同通信大阪支社note   2023/09/17 )