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プーチンに勝った主婦、マネーの世界史、金融ディストピア…12月の気になるノンフィクション

7月に発表され書籍としての刊行が待たれていた、本年度の開高健ノンフィクション賞受賞作品『対馬の海に沈む』がいよいよ発売されます。

タイトルを聞いただけだと、どこかの沈没船をめぐる話のように聞こえますが、テーマとなっているのはJA対馬で起こった共済金の不正流用問題です。対馬という人口の少ない島にもかかわらず、全国でも並ぶ者がないほどの成績を収めていた農協職員。その男性が不正流用の疑いをかけられたまま運転中に海に転落、溺死したのです。その軌跡を追い、JAの構造を明らかにしたという衝撃のノンフィクションです。

『対馬の海に沈む』
窪田 新之助 (著)

そのほかいくつか12月の気になるノンフィクションを紹介していきます。
 
物価の値上がりが止まず、超富裕層と貧困層の二極化が顕著な今、お金にまつわる本の刊行が増えています。
 
とはいえ、お金に翻弄されているのは今の時代の人間ではありません、お金の誕生から経済システムの推移まで5000年以上にわたるお金の歴史を一挙に振り返ろう、というのが『マネーの世界史』

『マネーの世界史 我々を翻弄し続ける「お金」エンタテインメント』
ジェイコブ・ゴールドスタイン (著), 松藤 留美子 (翻訳)

一方、『金融ディストピア』はまさに今、とこれからを描いています。「メガリッチ」と「その他労働者」に二極化してしまったのはなぜなのか、その恐怖は?未来はどうなるのでしょうか?

『金融ディストピア: カネはなぜ超富裕層に集中するのか』
ノミ・プリンス (著), 藤井 清美 (翻訳)

 『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』
森 功 (著)

日本一のマンモス私大では近年金銭不祥事、薬物事件などなど様々な事件が報じられています。林真理子体制のもと立て直しを図る日大に何が起こっているのか。これまで報じられたものから、現在進行形の話題まで、大宅賞作家がそのタブーに迫ります。

『ラジウム・ガールズ 』ケイト・ムーア (著), 山口菜穂子 (翻訳), 杉本裕代 (翻訳), 松永典子 (翻訳)

ラジウム・ガールズとは時計メーカーの工場でラジウム夜光塗料を文字盤に塗っていた女性労働者のことです。しかし、放射性物質だという認識をもたれる前の時代のこと、そういった事を知らない中、少女たちに奇病が広がり始めます。歯が抜け、骨が崩れ、そして最後には命を落としていく彼女たち。企業が隠蔽をはかろうとする中、彼女たちは尊厳をかけた闘いを始めます。労働者の安全確保を切り拓いたといっても過言ではない事件を描いた1冊。 

『人はなぜ物を愛するのか:「お気に入り」を生み出す心の仕組み』
アーロン・アフーヴィア (著), 田沢恭子 (翻訳)

心の謎を解くというポピュラーサイエンスの要素も、マーケティング関係や商品開発系の方にもどちらにもオススメしたい「心」の研究本です。
テーマは「物に対する愛着」です。AI技術の発展にかかわらず、私たちは売れ残った1個を「かわいそう」だと思い、顔の描かれたお菓子を「可愛いから食べられない」と感じています。どうして人は物にたいする愛着をもつのでしょう?その仕組みを明らかにしていくと人類の進化との結びつきも見えてくるようです。

『プーチンに勝った主婦 マリーナ・リトビネンコの闘いの記録』
小倉 孝保 (著)

2006年、連邦保安局(FSB)の職員だったアレクサンドル・リトビネンコが放射性物質により毒殺されました。上司から暗殺指示があったことを告発し、その後逮捕され亡命していたリトビネンコ。その死はすでに「プーチンによって承認された」と結論づけられていますが、真相を明らかにするために戦ったのは妻であるマリーナでした。一介の主婦だったマリーナが様々な妨害に負けずプーチンに挑んだ裏側が明らかに。

『格闘技が紅白に勝った日 2003年大晦日興行戦争の記録』
細田 昌志 (著)

年末が近づき、今年も紅白の出場者も発表されました。今では大晦日に格闘技の大きな大会があるのは当たり前になりましたが、中でも2003年は元横綱だった曙とボブ・サップが戦ったメインイベントでNHK紅白の視聴率を抜くことになりました。
各社が放映権と目玉選手獲得にしのぎを削る中、裏では様々な駆け引きが行われていました。テレビ局・格闘技団体・選手、そして興業に関わる人間たち。その内幕を『力道山未亡人』で小学館ノンフィクション大賞を受賞した著者が描きます。

『羊皮紙をめぐる冒険』
八木健治 (著)

今、2万円超えにも関わらず『物語要素事典』という本が爆発的に売れています。なんとすごい仕事だろう、と感服したものですが、書物にまつわるプロフェッショナルな人たちの活動には心惹かれます。この八木さんの活動もその一つでしょう。“紙”どころか羊皮紙を自らつくる(しかも自宅の風呂場で!)という活動をされている八木さん。独学での研究から、今や世界的専門家になったのだそう。まさに歴史に残る仕事、ではないでしょうか。 

そろそろ2024年の年間ベストブックなども発表されてきますが、とにかく12月はノンフィクションが豊作!年末年始のまとまった休みにどのあたりのジャンルにチャレンジするか、新刊案内と店頭でじっくり吟味して楽しい読書時間をお過ごしください!

ふるはた・みずほ 日販→出版社勤務。これまで、ながらくMDの仕事に携わっており、各種マーケットデータを利用した販売戦略の立案や売場作り提案を行ってきた。本を読むのと、「本が売れている」という話を聞くのが同じくらい好き。本屋大賞の立ち上げにも関わり、現在は本屋大賞実行委員会理事