「未来のグランドデザインを描くのは無理」NHK経営が職員に語った衝撃発言の一部始終を明らかにする
スローニュース取材班
前回、NHKのスペシャルコンテンツと呼ばれる特設サイトの多くが一斉に更新停止となることなど、デジタル化に逆行するような指示がコンテンツ制作の現場に相次いでいることを伝えた。デジタル職員の廃止をはじめとした新たな人事制度が断行されることは、スローニュースでの報道の2日後になって職員側(組合)に示され、衝撃を持って受け止められている。
今回、新たに入手したのは、NHKの労働組合と会長が直接協議をする「中央経営協議会」の開催報告だ。職員であれば誰でも見られるもので、驚くような内容はないだろうと思っていたが、そうではなかった。「NHKのみならずテレビというメディアの求心力は以前より低下しており、職員の不安は日増しに大きくなっている」と主張する組合に対し、「あまりデジタルシフトを先に進めなければと思い詰めなくても良いのではないか」「この時点で未来図を示すことが重要なことではない」という経営側の驚きの発言が記録されている。
「緊急特集『NHKデジタル大逆行』#3」では、この資料をもとに、経営と職員の間で全くかみ合わない議論が続いている実態を明らかにする。
NHK会長が職員と直接協議する「中央経営協議会」とは
NHKの労働組合とは日本放送労働組合、略して日放労(にっぽうろう)だ。現在、管理職を除いたNHKの職員7000人余りが入っている。
日放労と経営側との間で行われる「団交」には、会長は出席しない。そうした場には、担当理事らが出席する。
しかし会長が出てきて、直接、職員たちと協議をする数少ない機会がある。それが「中央経営協議会」だ。協会の経営側が日放労に、予算と事業計画、組織改正についてなど諮問をする形になっている。
今回は2026年度までの「3か年経営計画」と、次年度の「予算・事業計画」が経営委員会で議決されたことから、1月12日に開催された。今回入手したのは、「開催報告」という日放労がまとめた議事録の形式になった資料だ。
「デジタルシフト」の必要性を訴える職員側
それによると、まず経営側から「忌憚のない意見をお願いしたい」と挨拶があったあと、組合側が切実な危機感を訴えている。
組合側が前提としているのは、「いかにNHKのサービスを新しいものに切り替え、視聴者の信頼、国民の信頼を取り戻していけるかを考えなければならない」という言葉から分かるように、既にNHKという組織が視聴者の信頼を失っているという、マイナスのポジションからスタートしなければならないというスタンスだ。
そのうえで、「現経営陣の(中略)具体的なビジョンが見えてこない」「経営は、NHKがいまだメディアをけん引するポジションにあるとしているが、組合としては、NHKというメディアの求心力は以前よりも低下しており、職員の不安は日増しに大きくなっていると考えている」と経営側の認識の甘さを指摘し、焦燥感にかられた訴えをしている。
さらに、この協議の内容を伝え聞いたある中堅職員が、「昔の組合ならそんなことを言わなかったのに」と驚いたのが次の発言だ。
「これまで組合は 、中央経営協議会など経営との議論の場において 、テレビ中心の考えをデジタルヘと移行していく『デジタルシフト 』の必要性を訴えてきた 。それこそが激変したメディア環境の中で 、それでもなお視聴者からNHKを信頼してもらううために必要不可欠だと考えてきたからで、この考え方は今なお変わらない。
一方、経営からは『テレビ離れは起きていない』という意見も聞こえてくるが、良い番組を作ってさえいれば視聴者に確実に届くという考え方にとどまっているのではないかと見受けられる」
何を根拠に「テレビ離れは起きていない」と言う者がいるのかが不思議ではあるが、経営に対して組合側が「デジタルシフト」をこれほど強く訴えているのは、一昔前とは大きな違いなのだ。
「この時点で未来図を示すのが重要ではない」経営側の驚きの発言
これに対して経営側からは、「デジタルシフトは必要があると言えばある」としながらも、驚くべき発言が飛び出す。