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ピューリッツアー賞2024の受賞作をどこよりも詳しく紹介!あの凄すぎる調査報道から新興ローカルメディアまで!

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

アメリカで報道の分野では最も権威のあるピューリッツアー賞。5月6日に2024年の受賞者が発表されました。

とはいえ、日本での報道はごく短いもの。今回は受賞作品を、どこよりも詳しく紹介しますよ。

公共サービス部門:プロパブリカ「法廷の友人たち」

話題になっていた報道が、公共サービス部門で選ばれましたね。調査報道をウェブで発信し続け、今やピューリッツアー賞の常連といってもいい「ProPublica」によるものです。

自らに有利な判決を最高裁に求めてきた億万長者と、最高裁判事との親密すぎる関係。プライベートジェットで釣りに連れていくなどの豪華接待旅行の事実を明らかにしました。プロパブリカが入手した自慢げに釣果の大きな魚を掲げる彼らの写真も、その関係性をうかがわせる印象的なものでした。

別の最高裁判事も、不動産王と長年親密な関係にあり、息子の学費を払ってもらったり、不動産を買い取ってもらったりしていたことも報じています。

取材に携わった記者は5人。プロパブリカとしてなんと7回目の受賞になります。

速報ニュース部門:ルックアウト「サンタクルーズを襲った暴風雨の報道」

速報ニュース部門では、カリフォルニア州サンタクルーズの暴風雨の被害を報道した、地元のローカルメディア「Lookout」が受賞しました。

発災後にはライブブログを運用して刻々と変化する災害の状況を伝えたほか、その後の復旧・復興事業でも丁寧に検証する報道を行っています。

しかし何より注目すべきは、このメディアが2020 年11月にサイトを立ち上げたばかりだということかもしれません。「ニュース砂漠」が各地にできつつある今、希望の持てる取り組みです。

調査報道部門:ニューヨーク・タイムズのハンナ・ドライヤー記者「全米に広がる移民児童の過酷な労働」

調査報道部門には、全米各地で過酷な労働に従事する移民の子どもたちのことを報じた、ニューヨーク・タイムズのハンナ・ドライヤー記者の報道が選ばれました。

一度や二度の報道ではなく、年間を通じて企業や政府の対応なども報じることで、政策にも影響を与えました。

それにしても目を引くのはドライヤーさんの経歴です。ニューヨーク・タイムズの前にはワシントン・ポストに、そして前出のプロパブリカでも働いていたほか、AP通信でも特派員を務めていたとか。ピューリッツアー賞も2度目のようで、凄い記者はやっぱり凄いですね。

詳報部門:ニューヨーカーのサラ・スティルマン記者「数マイル離れた場所での事故で終身刑を宣告される」

詳報部門(解説報道とも訳せるのですが、純粋な解説部門は別にあるのでこう訳してました)では、ニューヨーカー誌のサラ・スティルマン記者の記事が選ばれました。

残念ながらニューヨーカーは購読していないので、記事本文は読んではいません。受賞理由などを読むと、何千人ものアメリカ人、特に若い黒人が、犯してもいない殺人の罪で、時には終身刑にまで追いやられるなど非人道的な法制度について告発する記事になっているようです。

現場リポート部門:シティ・ビューローとインビジブル・インスティテュート「シカゴで行方不明」

現場リポート部門では、シティ・ビューローのサラ・コンウェイ記者とインビジブル・インスティテュートのデータジャーナリストであるトリーナ・レイノルズ・タイラーさんによる報道が受賞しました。

シカゴ警察が行方不明事件をどのように処理しているかを2年間追跡。黒人女性と少女に対する捜査が不十分で、いかに差別的な扱いを受けているかを明らかにしました。パート7まである重厚な調査報道になっています。

国内報道部門:ロイター通信「イーロン・マスク氏の事業についての調査」

国内報道部門では、ローター通信の記者たちによるイーロン・マスク氏の経営するテスラやスペースXについて深掘りした報道が選ばれました。

https://www.reuters.com/investigates/special-report/spacex-musk-safety/

https://www.reuters.com/investigates/special-report/neuralink-musk-fda/

https://www.reuters.com/investigates/special-report/tesla-musk-steering-suspension/

華やかな宇宙事業の陰で、600件もの職場での事故が起きていることや、テスラ車の欠陥や故障に関する何万人ものユーザーからの報告を握り潰していた実態などを明らかにしています。これもまた、調査報道ですよね。

国内報道部門:ワシントン・ポスト「銃乱射事件の関連報道」

国内報道部門は、ワシントン・ポストも受賞しています。全米に広く出回り、銃乱射事件で頻繁に使われている半自動小銃「AR-15」。その脅威と問題を取り扱った報道です。

https://www.washingtonpost.com/nation/interactive/2023/ar-15-damage-to-human-body/

https://www.washingtonpost.com/nation/interactive/2023/ar-15-america-gun-culture-politics/

国際報道部門:ニューヨーク・タイムズ「ハマスとイスラエルをめぐる報道」

国際報道部門では、ハマスがイスラエル軍についてどのような情報を把握し、攻撃に至ったのかという報道や、イスラエル軍の内情について報じたニューヨーク・タイムズのスタッフが選ばれています。

「ハマスが知っていたイスラエル軍の秘密」「イスラエルはハマスの攻撃計画を1年以上前から知っていた」などの衝撃的な内容です。

音声リポート部門:インビジブル・インスティテュートとUSGオーディオ「何も見ていなかった」

音声リポート部門は、インビジブル・インスティテュートとUSGオーディオによるポッドキャストのコンテンツです。

ヨハンス・ラクールさんは、シカゴのサウスサイドでの1997年のヘイトクライムについて、当時地元の新聞社と協力して調査をしていました。約25年が経過したいま再び現場を訪れ、どのように事件が起きたかを検証しています。

一部は回想録、一部は調査報道となっている7部構成のシリーズは、アーカイブ音声と関係者への新しいインタビューを使用して、事件を新たな視点から照らし出しています。

このほかにも、「特集記事」「解説」「批評」「論説」「写真」などの各部門がありますが、調査報道的なものではないので割愛します。

そしてこれは既に日本の各メディアでも報じられていますが、特別賞は以下のようになりました。

特別賞:ガザの戦争を取材するジャーナリストとメディア関係者

NPOのジャーナリスト保護委員会によると、去年、世界で殺害されたジャーナリストは99人でしたが、そのうち77人がガザで亡くなったそうです。

命を賭しても、世の中にとっては報じないリスクの方が大きいと、現地で活動したジャーナリストたち。できれば本当に、ひとり一人の活動と業績に報いたいと思います。(熊)


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