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突然、警察官に連行される高齢者!面会を認めず、相続人に不動産の評価や貯金さえ明かさない後見人…港区で起きている「高齢者連れ去り」の実態とは

今年6月17日、東京都港区の高輪警察署の前で、ちょっとした騒ぎがおきた。白髪の高齢女性が、高齢者向けキャリーカートのハンドルを両手で必死につかみながら、大声を張り上げた。

「後見人だから(何をしても)いい、ってことじゃないでしょ!」

怒りの矛先は、右側に立つ女性弁護士だ。弁護士は高齢女性の成年後見人である。成年後見人は、認知症などで判断能力が著しく失われた人に代わって財産の管理や生活支援などを担う。銀行口座の現金引き出しから介護サービスの契約まで、日常生活のあらゆることを代行できる。だからこそ、サービスを受ける側の被後見人と成年後見人の間には強い信頼関係がなければ成り立たない。ところが、2人の間に信頼はないようで、端から見ても雰囲気は険悪だった。

いったい、高輪警察署の前で何が起きたのか。

本人も家族も望んでいないのに、自治体が勝手に「認知症が進んだ」などと判断して高齢の肉親を親族から引き離し、行政権限で高齢者に成年後見人をつけるケースが全国で急増している。そのなかには、高齢者と肉親の面会が1年以上も遮断され、その間に本人や家族の同意がないまま財産が処分されたケースも少なくない。被害に遭った当事者らは「突然、親と連絡が取れなくなった。自治体による高齢者の誘拐ではないか」「成年後見人が財産を独断で売り払った」などと憤る。

“自治体による高齢者の連れ去り”を追うシリーズの2回目は、前回に続いて東京都港区が舞台だ。初回で報じたケースと異なるこの出来事も、大都会の真ん中で起きていた。

フロントラインプレス

突然、警察官に連行されて…

高輪警察署の前で騒動が起きたのは梅雨入り4日前で、東京は朝から薄曇りが続いていた。騒ぎが起きたのはこの日の午後。70代の高齢女性、山野春江さん(仮名)が自身の成年後見人である弁護士に大声を出し始めると、警察官ら20人ほどに取り囲まれ、警察署の前は一時騒然となった。

山野春江さん(仮名、写真中央の白髪の女性)は、高輪警察署の前で成年後見人の弁護士に左肩をつかまれて連行されそうになった(鈴木さんが撮影した動画から抜粋)

その場には、高齢女性に付き添った姪の鈴木直子さん(仮名、40代)がいた。鈴木さんが、騒動に至った経緯をこう話す。

「この日は、高齢者施設に入所している春江叔母さんと一緒に旅館に宿泊していました。叔母さんは施設に入ってから半年間も外出できず、友人にも会わせてもらえない状態が続いていました。『たまには出かけたい』と言うので、一緒に散歩に行って食事をしたらとてもうれしそうで、そのまま宿泊することにしました。もちろん、施設には宿泊の連絡を入れています。そして、翌日に叔母さんの認知症がどの程度なのかを診断してもらうために病院に行ったのですが、帰りに旅館の近所で警察官から『高輪警察署に来るように』と言われて連れて行かれました」

後見人の弁護士は、大きな声をあげて抵抗する春江さんの肩をつかんで引っ張り、どこか別の場所に連れ去ろうとする。それに対し、春江さんや鈴木さんが「そういうことはしないで!」と抗議すると、後見人の弁護士は顔色ひとつ変えず冷たくこう言った。

「私は後見人ですから」

警察署前の騒ぎは、1時間近く続いたという。やがて、春江さんは警察官によって高齢者施設の車に押し込まれ、強制的に施設へ連れて行かれてしまった。この経緯は動画で撮影されている。それを見ると、春江さんが車に押し込められた時に小さな体から力を振りしぼって最後に叫んだ言葉は「やめてよ!ほんとに!」だった。

姪の鈴木さんは、あの光景が忘れられない。

「後見人や警察官は、私のことを施設から連れ去った実行犯だと見ていました。それに対し、春江叔母さんは『この人は一生懸命、私を世話してくれたんだから』と必死に説明してくれた。いま考えると、春江叔母さんは、何も悪いことをしていないのに迷惑をかけてしまった姪っ子の私を守ろうとしてくれたんだと思います」

警視庁高輪警察署

やがて、東京は梅雨入り。それに歩調を合わせるかのように、後見人によって鈴木さんと叔母の春江さんの面会は禁止され、連絡を取ることさえできなくなってしまった。どんな法律を根拠にして後見人と警察官が叔母を連れ去ったのか、いまだにそれもよくわからない。後見人に説明を求めても「姪に説明する必要はない」と言うだけだった。

高齢者所有の不動産に執着する後見人

おかしなことが起きているのがわかったのは、高輪警察署での騒動の1年前、2023年7月だった。

鈴木さんの父は6人きょうだいで、春江さんは父の一番下の妹にあたる。春江さんは、港区にある酒屋と居酒屋が一緒になった店を両親から引き継ぎ、姉と兄の3人で経営していた。居酒屋といっても、客が酒屋の冷蔵庫からお酒を自由に取ってきて簡単な乾き物を提供する昔ながらの店で、いわゆる「角打ち」と呼ばれる酒場だった。

「店を切り盛りしていた春江叔母さんたちは、3人とも未婚でした。2023年に春江叔母さんの姉と兄が相次いで亡くなって直系の相続人が誰もいなくなり、姪である私に相続権が発生しました。それで、後見人から『財産調査がしたい』との手紙が届いたのです。つまり、その時点ですでに春江叔母さんには港区長の申し立てによって弁護士の成年後見人がついていました。2023年に亡くなった春江叔母さんの兄と姉にも、同様に成年後見人がついていたことも知りませんでした」(鈴木さん)

鈴木さんの父は店の経営に関わっておらず、8年前に他界している。

春江叔母さんときょうだいで経営していた酒屋(2024年1月撮影、鈴木さん提供)=写真は一部加工しています

鈴木さんは、親戚が経営する店がどうなっているかもしばらく見ていなかったので、久しぶりに春江さんを訪ねることにした。すると、そこでは信じられないことが起きていた。

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