わずか3畳の部屋に2年も隔離された男性は、パンを詰まらせて亡くなっているのを発見された…両親が明石市の病院を提訴へ。改めて問われる精神医療
フリーライター 中部剛士
患者への「虐待」とされるケースも相次ぎ、いま改めて精神科「医療」の在り方が問われている。そんな中、新たな問題が浮上した。
兵庫県明石市の精神科病院「明石土山病院」で、約2年にわたって「隔離室」での生活を強いられた男性が、朝食のパンをのどに詰まらせて窒息死した。病院は朝食の後片付けをしたのに、男性がパンを詰まらせて苦しんでいることに気づかず、約2時間半後に死亡しているのを発見した。
男性の両親は、「長期間の隔離や向精神薬物療法で咀嚼・嚥下機能が低下し、パンをのどに詰まらせる可能性があることは容易に想像でき、見守りも不十分だった」と主張している。8月中にも、病院に約5600万円の損害賠償請求の訴えを神戸地方裁判所に起こすことになった。
亡くなった初田竹重さん(死亡時50歳)は入院前、兵庫県加西市で暮らしていた。
統合失調症と診断され、2019年5月に医療保護入院。家族が入手した病院資料によると、隔離が始まった2019年6月5日から亡くなるまでの680日間で、一日中隔離室から解放されたのは、33日間のみだった。それ以外は昼間の部分解除があっても隔離がない日はなく、2020年12月8日から亡くなるまでの128日間は終日の隔離が続いていた。
「隔離室」はわずか3畳ほどの狭さだ。外からカギがかけられ、自由に出入りすることはできない。部屋にはベッド、トイレなど、最低限のものしかない。竹重さん本人も両親も、病院に対して再三、隔離室から出すよう求めていた。
隔離は、精神保健福祉法などで「患者の症状から、本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が著しく高く、隔離以外の方法ではその危険を回避することが著しく困難である場合」と限定的な運用が認められている。
両親は「亡くなる5日前に息子から電話があり、『隔離室のままでは足が立たなくなって車いすになってしまう』と言い、私たちは迎えに行くことを約束して電話を切りました。入院前は、苦しい病気との毎日でもトラクターに乗ったり、畑に肥料をまいたりしてくれていました。自慢の息子でした」と語っている。
病院側は「取材には一切応じられない」としている。
この問題については、隔離の具体的な状況など、今後、スローニュース上で詳しく伝えていく。