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ノーベル賞、シンギュラリティ、角幡唯介、箱根5区、死の現場…11月の気になるノンフィクション

古幡 瑞穂

今年もノーベル賞各賞が発表されました。文学賞を受賞したハン・ガンさんの影響で著作の売上げは大ブレイクしています。出身国韓国では受賞後に100万部の重版があったのだとか。
ノーベル賞に関してはノンフィクションでも大きな動きがあります。

経済学賞を受賞したダロン・アセモグル教授とサイモン・ジョンソン教授、ジェームズ・ロビンソン教授は最近話題になった著作も多く(『技術革新と不平等の1000年史』『国家はなぜ衰退するのか』)こちらは日本でも大きな話題になっています。

ノーベル賞は難しすぎるけど、何か読んでみたいという方に、これはいかがでしょう?

『経済学者のすごい思考法』
エリック・アングナー (著), 遠藤 真美 (翻訳)

学問としての経済学はちょっと手を出しづらいところもありますが、“経済学”という考え方を使って、今世界で起こっていることや日々の生活を考えていく、という初心者にも楽しめそうな作品です。子育てや投資についても学べるのだとか。ノーベル賞を理解する自信ナシという方にもオススメしておきたい1冊です。

そのほかいくつか11月の気になるノンフィクションを紹介していきます。

今回、AIや思考についての本が多く目立ちました。生活の中にAIが入り込み、利点も欠点も見えてきた今だからこそ、その付き合い方、人間との違いを知っておくべきなのかもしれません。

『シンギュラリティはより近く: 人類がAIと融合するとき』
レイ・カーツワイル (著), 高橋 則明 (翻訳)

ニューヨーク・タイムズのベストセラーだというこちら。AI研究開発の世界的権威と言われるレイ・カーツワイルの最新作。彼はもともとAIが人間の知性を超えるタイミングを2029年と予測していました。ここに到達するまであと5年。シンギュラリティへの到達も時間の問題なのかもしれません。どのように実現するのか、何が起こるのか、今後の社会はどうなっていくのか?
未来予測と現代の最先端技術について解き明かされた必読の1冊。

『AIにはない「思考力」の身につけ方』
今井 むつみ (著)

『言語の本質』『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』など出版した本が次々にベストセラーになっている今井むつみさんの最新刊。新作はちくまQブックスという10代向けのシリーズから登場です。大人の入門書としても読めそうです。

『地図なき山:日高山脈49日漂泊行』
角幡唯介(著)

北極探検などで知られる探検家の角幡唯介さんの最新刊です。正直タイトルを見たときに「あれ、日本の山?」と思ったのです。ただ、この表紙画像を見ただけでもなんとなく恐ろしい感じがしてきます。なんと今回の探検は「地図を持たずに」のチャレンジだったとのこと。

最近はもう東西南北も確認することなく地図アプリを開き、そこまでのルートは検索結果頼み、という生活です。そんな現代人が地図のありがたみに気づくための本になるかもしれません。

『女たちがつくってきたお酒の歴史』
マロリー・オメーラ (著), 椰野 みさと (翻訳)
 

女性杜氏が誕生した、といったニュースの時に“酒の世界は男社会で…”という説明を聞いた記憶があります。確かにそんな印象を持っていたのですが、酒の歴史は女性によってつくられてきたようです。古代では酒の醸造は女たちの仕事で、「蒸留」の技術を見いだしたのも女性だったということのよう。一方で、発展とともに経済に近づくにつれ男たちが女性を排除したという動きもあるようです。酒✕女性という組み合わせに着目した歴史書。

『箱根5区』
佐藤俊 (著)

そろそろ箱根駅伝の季節になります。「箱根5区」は、箱根駅伝ファンでなくとも耳にしたことのある“山の神”が誕生する区間。近年では勝敗を左右するとも言われるようになりました。この山登りで伝説となった各大学の名選手たち、そして彼らに抜かれた側の選手たちにも取材し、人生が変わった瞬間とその後の人生を追ったノンフィクション。

箱根駅伝ものは毎年多くの本が出版されますが、今年は4月に池井戸潤さんの小説『俺たちの箱根駅伝』も話題になっています。こちらはフィクションですがあわせて読んでも楽しめるはず。

『ラトランド、お前は誰だ?: 日本を真珠湾攻撃に導いた男』
ロナルド・ドラブキン (著), 辻元 よしふみ (翻訳)

この本がデビュー作だという著者。なんと著者の父親の遺品整理中に、父親、そして祖父が米国のインテリジェンスとして活動していたことがわかったことが執筆のきっかけになったのだそう。

このラトランドは第一次大戦での英国軍の英雄であり、社交界での活動もあるセレブ、そしてまた日本軍とアメリカ軍の「二重スパイ」という様々な顔を持っていました。そして彼がもたらした情報が真珠湾攻撃、そして日米開戦に繋がっていったというのです。断片的な逸話が語られてきた存在でしたが、機密解除されたファイルによってスパイとしての全貌が浮かび上がってきました。スパイファン必読!

『死の仕事師たち:彼らはなぜ「人の死」を生業としたのか』
ヘイリー・キャンベル (著), 吉田俊太郎 (翻訳)

米国で各誌の絶賛を受けた話題の本が上陸します。もっとも近くにありながら、それを感じづらい「死」。しかし、死を感じずに日々の生活を送れるのは、それを生業としている人たちがいるからなのかもしれません。私たちには馴染みのある、葬祭ディレクターから死刑執行人まで、死にまつわる仕事をする人たちはなぜその職業を選んだのでしょうか。また、どんなことを思いながら働いているのでしょうか。そんな死の現場を描いたノンフィクション。

『転売ヤー 闇の経済学』
奥窪 優木 (著)

「推し」が巨大なビジネスになってきた一方、買い占めと高額転売の問題は拡大する一方です。そんな「転売ヤー」たちの実態に迫るレポート。日本が仕入れの場になっている海外の転売ヤーたち、個人で稼ぐ日本人。大きな転売グループの存在など、彼らの生活から得ている利益の実情まで、密着し驚愕のからくりを解き明かします。

読書週間まっただなか、読書の秋が本格化しています。この他にも面白い本が続々出版予定ですので、お近くの書店に足を運んでみてください。

ふるはた・みずほ 
日販→出版社勤務。これまで、ながらくMDの仕事に携わっており、各種マーケットデータを利用した販売戦略の立案や売場作り提案を行ってきた。本を読むのと、「本が売れている」という話を聞くのが同じくらい好き。本屋大賞の立ち上げにも関わり、現在は本屋大賞実行委員会理事