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「アメリカ分断の危機」は本当か?トランプ2.0誕生の現場を見てわかった米国社会「共和主義の底流」

共和党のドナルド・トランプ氏が1月20日、第47代米国大統領に就任します。

なぜアメリカ市民はトランプ大統領を選択したのか。米国社会で何が起きているのか。この疑問に答えるべく、スマートニュースとスローニュースは2024年11月23日に「米国大統領選2024『現地調査』報告会」と題したイベントを開催しました。

2024年の東京都知事選で15万票獲得し注目を集めた人工知能(AI)エンジニアの安野貴博氏、ジャーナリストの田中淳子氏(NHK元ワシントン支局長)、スタンフォード大学教授の筒井清輝氏、アメリカで事業を展開するスマートニュース会長の鈴木健氏の4人が、大統領選挙の最中の8日間にわたり、ミシガン州、オハイオ州、ペンシルベニア州をロードトリップ(現地視察)した成果を語り合いました。
 
スローニュースでは、この報告会の様子を全3回にわたってお届けします。第1回目では、大統領選挙のロードトリップを2016、2020年に続き3シーズン続けた鈴木氏を中心にセッション「民主主義の危機はあったのか」の内容をお伝えします。


ライター 石神俊大

本報告会はスマートニュースオフィス地下のイベントスペースで開催された

ロードトリップを続ける理由

「米国という国の多様性をもっと知る必要があると思った」。スマートニュース会長の鈴木健は、ロードトリップを始めた理由の一つをこう語った。
 
会社のミッションを「世界中の良質な情報を必要な人に届ける」と掲げるスマートニュース。ロードトリップを初めて実施した2016年は、米国事業を始めて2年が過ぎた頃だった。今後の事業展開を考える上で「『良質な情報』というものが地域や人によってどう違うかを知る必要がある」と考えたのだという。
 
当時、ある記事に衝撃を受けた。調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が2012年と2014年に発表した米国の政治的・社会的分断に関するものだ。

そこで示されたのは、米国社会の分断が2000年代には生じていたという内容。トランプ氏が大統領候補になるずっと前から共和党と民主党の間には隔たりがあったのだ。「この分断の実像を理解するには各地を回ってみるしかないと思った」と鈴木は振り返った。

米調査機関「ピュー・リサーチ・センター」によるリポート

さらに頭の中には『アメリカのデモクラシー』という本の存在があった。19世紀のフランスの政治思想家トクヴィルが外国人の目から米国社会を分析した古典的名著だ。

この本を読んで「米国の民主主義の強さや弱さについて、外国人だからこそ見えてくるものがあるはず」と考えるようになった。そして、共同創業者の浜本階生らと実際に各地を回ってみたところ、得られるものが予想以上に多かった。それがロードトリップを今も続けている理由なのだという。

トクヴィルの存在がロードトリップのきっかけのひとつだったと鈴木は語る

激戦州を歩いたからこそ分かること

さて、鈴木自身3シーズン目となる今回のロードトリップ。2022年に活動拠点を米国に移してから初めての大統領選だ。結果は、トランプ氏が31州で勝利し、4年ぶりに政権を奪還した。

メディアでは「スイング・ステート」と呼ばれる激戦7州(ネヴァダ、アリゾナ、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルバニア、ノースカロライナ、ジョージア)を全て制したことで、対立候補のカマラ・ハリス氏に「圧勝した」と報じられている。

だが、実際は「激戦州での両者の差はわずかであり、接戦だった」と鈴木は指摘する。

アメリカ社会で進む分断は政治的暴力にまで発展している

デトロイトから始まり、ミシガン州、オハイオ州、ペンシルバニア州を回ってきたという今回の旅。その概要を鈴木はこう説明した。

「オハイオ州のミドルタウンでは副大統領に就任したJ・D・ヴァンスの実家にも突撃しましたし、ミシガン州のバリー郡では、ミシガン州知事誘拐未遂事件の容疑者にもインタビューしました。レディ・ガガが出演したハリスの大規模集会にも参加するなど、様々な場所に足を運びました」
 
この日の報告会では、鈴木を含む登壇者4名がそれぞれの視点から今回の米大統領選と米国社会の関係を描き出すセッションを行った。本稿では次に鈴木によるセッション「民主主義の危機はあったのか」の模様をお伝えする。

今回のロードトリップでは、デトロイトに到着後、ミシガン州、オハイオ州、ペンシルベニア州を回ったという

米国内で高まる内戦の懸念

民主主義の危機はあったのか──。こう題したセッションで鈴木がまず言及したのは、米国内で高まる内戦の懸念についてだった。
 
「2020年の大統領選では選挙不正を訴える人々が『Stop the Steal(選挙を盗むな)』と呼ばれる運動を起こし、連邦議会議事堂の襲撃事件(2021年1月)へと発展しました。この事件は民主主義の危機として報じられ、内戦が起きるのではないかという声が高まっていきました」

「日本でも映画『シビル・ウォー』が公開されましたが、2022年には政治学者バーバラ・F・ウォルターが『How Civil Wars Start』(邦題『アメリカは内戦に向かうのか』)という本を上梓しています。米国内での内戦というものが、現実的な問題として捉えられているのです」

内戦研究の権威による話題作

本書の序章で描かれるのが、2020年10月のミシガン州知事への誘拐未遂事件だ。この事件では、ミシガン州のグレチェン・ウィットマー知事(民主党)らの拉致を企てたなどとして、極右グループの関係者ら計14人が米司法当局に逮捕された。
 
ミシガン州は共和党と民主党の勢力が拮抗している地域。2020年4月にも新型コロナ禍下でのロックダウン(都市封鎖)に抗議する「民兵」ら数百人が州議会議事堂に押し寄せるなど問題が度々起きていた。

今回の誘拐計画も米連邦捜査局(FBI)などの捜査の結果、未遂に終わった。だが、大統領選前だったこともあり、「民主主義の危機」として大きな波乱を呼んだ。

ミシガン州議会抗議デモの様子

この先は会員限定です。ミシガン州知事誘拐未遂事件の容疑者へのインタビューから見えた米国社会の分断の本質や民主主義を崩壊させないために重要な制度設計について迫ります。

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