災害前線報道ハンドブック【第4章】復興フェイズ①復興の「空白地帯」を見つける
スローニュース 熊田安伸
今回から第4章「復興フェイズ」です。復興計画・復興事業のチェックは、まさに「調査報道」そのもの。拙著『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』とかぶるテクニックやツールも多いですが、災害報道に特化した形でご紹介していこうと思います。
復興の現場を何度も歩くと…
新潟県中越地震の発生から1年が経過した2005年の小千谷市。復興予算の規模は350億円で、本来なら既にかなりの復旧工事が進んでいるはずでした。
しかし小千谷市を担当しているNHK新潟放送局の記者が、現場に何度も通い詰めるうちにおかしなことに気づきます。道路や下水道の復旧工事の看板に記載された、工事の終了日がどれもこれも伏せられているのです。
工事を請け負っている業者に取材したところ、「小千谷市から工事の中止を求める通知書が届いた」といいます。一つや二つではなく、数多くの通知書が送られてきていました。
そこで市に取材をしたところ、400件余りの復旧工事のうち、なんとたったの2件しか工事は終了していなかったのです。
原因は、道路の復旧工事を発注する建設課と下水道の復旧工事を発注する下水道課が、打ち合わせもなくそれぞれバラバラに発注してしまったことでした。そのため工事を進める順序に齟齬が起き、発災から1年経過しているというのに、仕切り直しという事態に陥っていました。
取材の結果は、『新潟県中越地震から1年 遅れる復旧 その裏で』という番組で放送しました。やはり現場を繰り返し歩くことで感じる「違和感」はとても重要ですよね。第2章でも紹介した「2階族」の問題も、同じような取材の成果でした。
そして巨額の予算が動く復興事業では、それぞれの役所やセクションが都合のいいように使っていき、届くべき復興の現場に届かない。のちに東日本大震災の復興事業で、各省庁が競うように予算の獲得に走り、それぞれが都合のいいように流用していくのと同じ「タテ割り」の構造がこの時に見え、その後の「復興予算問題」の取材につながりました。