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災害前線報道ハンドブック【第4章】復興フェイズ②復興予算問題に気づくまで

スローニュース 熊田安伸

前回も紹介した通り、復興事業では「タテ割り」が必ずといっていいほど弊害として浮かび上がります。中でも大きな話題を呼んだ東日本大震災の復興予算問題は記憶に新しいところではないでしょうか。今回はその問題に気づくまでの取材の経緯をご紹介します。


当時の政権を揺るがせた復興予算問題

東日本大震災が発生した翌年、2012年に放送された「NHKスペシャル シリーズ東日本大震災『追跡 復興予算19兆円』」は、増税によって賄われた復興予算が被災地とは直接的には関係ない事業に次々と使われていった実態を明らかにし、時の政権を動揺させるほどの大きな話題になりました。

指摘を受けて、国は一部の事業の事業費を国庫へ返納する措置を取らざるを得なくなりました。

前回書いたように、この問題をテーマとして取り上げようとしたきっかけは、7年前の新潟県中越地震で復興事業を取材していたからです。巨額の復興予算は、必ず「緊急性」などを名目としたずさんな使われ方をします。発災から1年は「命を守る報道」に徹しましたが、1年目の節目のNHKスペシャルの打ち上げの席で、「ここからは復興事業とカネの検証に切り替える」と宣言して取材をスタートしました。

中越地震の時との違いは「復興庁」ができたことです。復興をワンストップで推進するという謳い文句だったのに、なぜこれほどまでに復興が遅いのか。復興庁のやり方に問題があるのではないかと当初は考えていました。

復興庁に「密着取材」を依頼しよう。そう考えて、2012年5月に記者やディレクターとともに復興庁に直接乗り込みました。そのころの私たちは、復興に使われる金=「復興交付金」というイメージを抱いていました。

当時の復興庁のプレスリリースより

復興庁のプレスリリースも復興交付金のことが中心でしたし、メディア各社も「復興交付金が何%認められた」というようなことばかりを報じていました。自治体の首長が注目しているのも、復興交付金がいくら自分のところに流れてくるのかということばかりでした。

復興庁は「復興予算」の大半に権限を持っていなかった!

しかし、復興交付金の額は3次補正と2012年度当初予算を合わせても1兆8400億円余り。19兆円といわれる「復興予算」の1割に満たない額です。交付金以外の9割にも上る金額が何に使われているのか。詳しいことは報道で取り上げられていませんでした。

復興庁資料より

復興庁で予算の担当者から説明を受けるうちに、奇妙なことに気づきました。

ここから先は会員限定です。復興庁という組織がどういう存在だったのか。そしてどのようにして「問題の本質」に気づくことができたのか、その内幕をご紹介します。

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