災害前線報道ハンドブック【第1章】発災フェイズ⑤災害の「顔」に気づけるか
歴史に残る事件・事故・災害は、必ず「新しい顔」を持って現れます。逆にいえば、従来とは違う新たな課題を社会に突き付けるからこそ、歴史に残るのかもしれません。早い段階にそれに気づけるかどうかで、その後の取材が大きく変わってきます。今回はその実例と、気づくための手法について述べます。
誰も何が起きているか分かっていない
2004年の新潟県中越地震は、10月23日の本震の後も、マグニチュード6を超える余震が長く続いたのが特徴でした。それが従来の災害とは違う、思わぬ事態をもたらすことになりました。
発災から2日後の10月25日から、奇妙な警察発表が相次ぎます。
「後片付け疲れによる病死」「過労等ストレス等に起因した災害死」……なんとなく分かるような気がしないでもないですが、よく考えるとこれでは明確な死因がさっぱり分かりません。おそらくは警察当局も、この段階では何が起きつつあるのか、わかっていなかったのではないでしょうか。
新聞はどこも警察発表の内容をそのまま小さく載せた、いわゆる「ベタ記事」扱いで報じました。でも、なんだかおかしい。そう考えたNHK新潟放送局と応援に来た記者たちが、手分けをして取材を始めました。