見出し画像

発がん性が指摘されるPFASの除去技術を実用化へ、静岡市が企業と提携!でも費用はだれが負担する?

PFASを除去する技術とは

8月21日、東京・品川にあるホテルで記者会見が開かれた。そこで流れたプレゼンテーション動画で、次のようなメカニズムが紹介された。

PFAS(有機フッ素化合物)に汚染された水が入った水槽で、薬品を入れて、加圧と減圧を繰り返す。やがて微細な泡(ナノバブル)ができ、PFASを分離させる。まもなく、PFASを吸着した泡が水面に浮かび上がる。その泡をかき集めて取り除く。こうして約80パーセントのPFASを除去することができたという。

ウォーターアンテリック社の説明資料より

実験は、「ウォーターアリンテック」社が、静岡市にある三保雨水ポンプ場で行った。テクノロジーによる環境問題の解決を目指すAホールディングス(山梨県富士吉田市)傘下の企業だ。

ポンプ場には、目の前にある三井・ケマーズフロロプロダクツ(MCF)清水工場によって汚染された水が流入している。その濃度は、最大で指針値の420倍にあたる21,000ナノグラムに達し、いまも4,000ナノグラムを超える。

三保雨水ポンプ場 裏にはすぐ海がある(撮影:諸永裕司)

ポンプ場を経た水は海へ流されることから、静岡市は活性炭による除去に取り組んでいるものの、濃度が高く水量が多いため、浄化が追いつかない。また、活性炭は頻繁に交換しなければならないだけでなく、使用後の処理にもコストがかかる。このため、同社と連携協定を結んで汚染除去に取り組むことを決めた。

また、「亜臨界水」と呼ばれる高温高圧の特殊な水によって、取り除いたPFASを無害化する研究や社会実装を目指す合同出資会社を近く設立するとも明かした。亜臨海水は福島原発から出る汚染水に含まれる放射性物質トリチウムなどの除去にも応用できるという。

課題は処理能力や除去したPFASの処分

ただ、実証実験での処理量は1時間当たり10トンにすぎず、ポンプ場の排水量は1日に約1万3000トンにものぼる。このため、処理能力の向上や処理コストの低減、除去したPFASの処分などが今後の課題となる。

また、除去対象はPFOSとPFOAの2物質に限られるため、2010年代以降に代替物質として使われてきたPFASについては今後、検討するとしている。

難波喬司・静岡市長(左)と粟井英朗・Aホールディングス社長 (写真提供:Aホールディングス)

「深刻な汚染地域」から「汚染除去の先進地」へ。新しい技術により汚染浄化の道筋に光が差したのは確かだろう。

ただ、静岡市が取り組むのはポンプ場に流れ込む雨水などに限られ、工場周辺の地下水や土壌などの汚染はいまも放置されている。汚染の原因者であるMCFは汚染の責任を公式に認めないばかりでなく、こうした汚染の浄化に取り組む姿勢も見せていない。

費用を誰が負担するかは「決めてない」

新技術によるポンプ場での汚染除去費用を、静岡市はMCFに求めていくのか。会見で、まっさきに質問が飛んだ。

難波市長は「まだ実証実験段階なので、費用負担を誰がするのかっていうことはまだ決めておりません」と言い、直接の言及を避けた。

仮に汚染の原因者に全額を負担させないとなれば、市民の税金を充てることになる。しかも、浄化対策は今後、長期に及ぶ。

3カ月ほど前、難波市長は私のインタビューに対して、清水工場によるPFOA汚染は「公害」との認識を示し、汚染対策費については補償を求める法的措置の可能性にも言及したうえで、「これを市の税金でやりますと言ったら、社会的には誰も納得しないですよね」と語っていた。

ところが、その9日後、MCFの丸山剛社長に面会すると、「もう、公害とは言わない」。あっさりと前言を翻し、汚染原因者との協調路線へ舵を切ったのだった。

それだけに、私は確かめずにはいられなかった。「汚染除去の費用を原因者に求めないこともありうるのでしょうか」。会見でそうたずねると、難波市長は次のように答えた。

「今もこの会社とは非常に良い関係を持ってコスト負担をしていただいています。問題解決に向けてお互いに一緒にやっていきましょうというような形でですね、その中で自然にどう負担をしていくのかっていうことが決まってくると思っています。『原因者だから負担しろ』みたいな言い方ではなくて、お互いの理解のもとで問題解決に結びつけていくのが大事だと思っております」

提携を発表する難波喬司・静岡市長(撮影:諸永裕司)

PFOAによる汚染はなぜ、いつから、どのようにもたらされてきたのか。
PFOAに代わる代替物質はいまも排出され続けているのではないか。

二つの問いに答えを出す必要はない。汚染除去が進みさえすれば問題はないだろう――。

みずからの責任を公的に認めようとしない企業と密室で話を進める難波市長の回答は、そう言っているようにも聞こえた。


諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com