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ニュースサイト「HUNTER」事務所への鹿児島県警の捜索がなぜ憲法違反だと言えるのか、詳しく解説【緊急イベントリポート②】

鹿児島県警の本田尚志・前生活安全部長(60)が内部文書を漏えいしたとして国家公務員法違反の罪で起訴された事件をめぐり、スローニュースは緊急トークイベントを6月24日に開催しました。その内容を4回にわたってお伝えしています。

登壇したのは、警察関係者とみられる匿名の内部文書を受け取った札幌市のライター小笠原淳さん(55)と、警察の強制捜索を受けた福岡市のニュースサイト「HUNTER(ハンター)」代表の中願寺純則さん(64)、公益通報(内部告発)に詳しいジャーナリストで上智大教授の奥山俊宏さん、調査報道グループ「フロントラインプレス」代表の高田昌幸さん。そして、司会はジャーナリストの長野智子さんです。

2回目は奥山教授が、HUNTERへの警察の家宅捜索がなぜ憲法違反だと言えるのか、詳しく解説したパートです。

構成:スローニュース 岩下明日香



報道機関の捜索は過去に例がない

長野 ここで具体的な問題点を公益通報に詳しい奥山さんに解説いただきたいと思います。

奥山 報道機関の事務所に対して警察権力の家宅捜索が入り、それによってニュースソースが暴かれてしまうということは、これまでになかったことです。この種の警察の捜査はつまるところ検察に指揮や指示を仰ぎながら進めるわけですが、法務省は取材源の秘匿について、最大限尊重するということを繰り返し国会でも言ってきています。

私の知る限り、1952年に日本がサンフランシスコ条約で独立して以降、現憲法下で報道機関に情報を提供したことで公務員を逮捕した事例は今回の事件を含めて4件だけ。うち国家公務員法で逮捕・起訴した事例は2件しかなく、そのうちの1件は今回の鹿児島県警の前生活安全部長の事例です。報道機関に対する捜査については、記者が覚醒剤をやっていたなど報道機関の側に犯罪行為があった場合を除いて、今回のケースのように単なる「関係先」として、例えば誰かから役所の秘密文書が送られてきて受け取ったということで、報道機関にガサ入れがなされるということはあってはならないことです。私の知る限り、これまでなかった。一例もなかったはずです。もしあるんだったら、教えてほしいです。

奥山俊宏教授

過去に、日本テレビが、国会議員が贈賄を申し込まれる様子を許可を得てひそかに撮影したビデオを東京地検特捜部が差し押さえるというケースはありました。それはそれで大問題となり、最高裁まで争われ、判例となっています。捜索ではなく、ブツを特定して差し押さえたケースならいくつかあります。

しかし、事務所をあさるような捜索をして、パソコンなど見つけたものを押収するというやり方をとったのは、戦後、今回の鹿児島県警の1件だけだと認識しています。

さらに申し上げますと、戦後、情報源として疑われた公務員が立件された事例は本当にわずかしかない。

1972年に有名な外務省機密漏えい事件で女性事務官が国家公務員法違反で逮捕・起訴されて以来、ずっとなかった。2例目は2022年6月に自衛隊の3等海佐が警務隊に逮捕された事件。そして今回、鹿児島県警に逮捕された藤井光樹元巡査長が3例目、本田尚志前生活安全部長が4例目になると思います。

ちなみに、記者・編集者が逮捕された事例は、外務省の女性事務官から秘密を受け取った毎日新聞の西山太吉記者の事例1件しかない。

私自身も検察官を取材していましたが、報道機関へのガサ入れについては、極めて慎重で抑制的でした。

取材源秘匿の重要性を考えず、安易に捜索・差し押さえをしたのではないか

憲法第21条に、「言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」とあります。憲法の教科書(佐藤幸治『憲法〔第三版〕現代法律学講座5』青林書院)によると、この規定は「情報の流通にかかわる国民の諸活動が公権力により妨げられないことを意味する」と書いてあります。最高裁判所もこれまでの判例で、取材の自由は、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するし、取材源の秘密を守るということは重要な社会的価値を有すると言っています。

最高裁の直近の判断としては、平成18年に、「報道関係者の取材源は、一般に、それがみだりに開示されると、報道関係者と取材源となる者との間の信頼関係が損なわれ、将来にわたる自由で円滑な取材活動が妨げられることとなり、報道機関の業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になると解されるので,取材源の秘密は職業の秘密に当たる」と判断しています。

そのような秘密を破るためには、最高裁の判例を前提にすれば、その捜索差押を必要とする程度、代替証拠の有無などのバランスをとる必要があるはずです。代わりになる証拠があるのであれば、取材源の秘密を侵すべきではない、というのがこれまでの判例です。

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