「米軍・横田基地が汚染源」と研究者、ところが東京都は監視井戸の水質測定をやめた!小池知事はなぜ動かない?
なぜ横田基地が汚染源と言えるのか
東京・多摩地区の汚染源のひとつは米軍・横田基地である――。
京都大学の原田浩二准教授は昨年、多摩地区にある140ヶ所の地下水などを測定・分析し、あらためてそう結論づけた。
主な根拠は二つある。
第一に、立川市の浅井戸と深井戸から、かつて基地の消火訓練に使われた泡消火剤に含まれるPFOSなどがきわめて高濃度で検出された。最大値は3102ナノグラムと、国の目標値の60倍を超える。なお、地下水脈はおおまかに西から東へ流れおり、基地の西側の井戸からはあまり検出されていない。
第二に、泡消火剤に含まれるPFOSの代替物質とされる6:2FTSも基地東側の地下水や基地近くを流れる残堀川から高濃度で検出された。
原田准教授は言う。
「東京・多摩地区では、泡消火剤に含まれていたPFASの古い物質と新しい物質がともに検出され、泡消火剤由来の汚染であると言えます。6:2FTSは沖縄の嘉手納基地周辺の川でも確認されています」
多摩地区には工場などの汚染源もあるとみられるが、横田基地がそのひとつであることに疑いはない。
汚染源の特定に後ろ向きの東京都
環境省が作成した「PFOS 及び PFOA に関する対応の手引き」では、排出源となりえる場所として真っ先に「泡消火薬剤を保有する施設」が挙げられている。また、高濃度が続く場合には「排出源の特定のための調査を実施し、濃度低減のために必要な措置を検討することが考えられる」と記されている。
だが、東京都は汚染源の特定に後ろ向きだ。
それどころか、横田基地からの汚染を監視するための「モニタリング井戸」でPFOS・PFOAの測定をやめていた。
モニタリング井戸が設けられた経緯について簡単に説明しよう。
1993年、横田基地内で大量のジェット燃料漏れ事故が起き、周辺の汚染が広がった。このため、東京都は基地周辺にモニタリング井戸を設けることにした。水道局、環境局、福祉保健局(現保健医療局)が定期的に計測の対象としていた井戸のうち、基地による汚染の影響を受けやすい位置にある18ヶ所をモニタリング井戸に指定した。
このうち、福祉保健局が管轄する井戸で次のような数値が検出されていた(PFOSとPFOAの合計)。
2008年 1265 ナノグラム
2010年 1130 ナノグラム
2015年 730 ナノグラム
2018年 1340 ナノグラム
この事実を、私は2020年1月に、当時勤めていた朝日新聞で報道した。するとまもなく、東京都はこの井戸での測定をやめてしまったのだ。
その理由について、基地を所管する都市整備局は「(モニタリング井戸を設けた)航空燃料漏出対策部会はあくまでジェット燃料漏れの影響を議論する場で、PFOS、PFOAについて調べるところではありません」と説明した。
のちに、この井戸の水質を調べた福祉保健局に聞くと、担当者は「井戸の所有者が飲用をやめたため」と説明した。
たとえ飲まなくなったとしても、深刻な汚染が確認されている以上、継続して測定する必要があるのではないか。すると後日、「所有者が井戸そのものをつぶしたので測っていない」との回答が返ってきた。
井戸はいつ廃止されたのかとたずねると。井戸台帳はすでに廃棄され、廃棄の記録は保存期間(1年)をすぎているので存在しない、という。
「小池知事は関心を示さない」
都庁内からは、「PFAS汚染となると横田基地に触れずにはいられなくなるためか、小池知事はまったく関心を示さない」との声が聞こえてくる。
昨年5月19日の記者会見で、横田基地が汚染源である可能性について問われると、小池知事は正面から答えることはなかった。
「有機フッ素化合物ですが、色々なところで使われているのはご承知のとおりであります。例えば、半導体の製造とか、撥水加工とかございまして、都のこれまでの調査では、様々な地域で検出もされていて、なかなか原因の特定は困難だというふうに考えられております」
すべての汚染源を特定することは簡単ではないとしても、横田基地が汚染源であることは否定できないのではないか。
公益財団法人・東京都環境公社の中にある東京都環境科学研究所が「都内水環境における PFOS の汚染源解明調査」という論文を2008年に発表し、「飛行場(横田基地)」から高濃度に汚染された排水が出ていることを示している。
会見からさらに1カ月あまりした昨年7月初め、基地内で過去に漏出事故が3件起きていたことを公表した際、小池知事は早々と「基地の調査は難しい」と漏らしている。また、「泡消火剤の漏出場所や漏出量など、調査を要請するうえで必要な情報を国は明らかにしていない」と言い、防衛省にボールを投げた。
その後、防衛省がより詳しい情報を公開し、基地内への立ち入り調査に再び焦点が当てられた。小池知事は「(立ち入り調査の要請は)国が一番ご存じのこと」とまたも防衛省に下駄をあずけた。
小池都政の2期8年で、首都・東京に広がるPFAS汚染の「汚染者」は特定されていない。「永遠の化学物質」に汚染された水や土はいまも、浄化や除去されることなく汚れたまま残っている。
PFAS汚染が広がったのは工場からの「垂れ流し同然の排水」。スローニュースでは静岡市のケースを動画でわかりやすく配信しています。
諸永裕司(もろなが・ゆうじ)
1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘 沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。横田基地の汚染などについては、6月8日の「ビデオニュース・ドットコム」でも配信。
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