理化学研究所で公的研究費によるプロジェクトの代表57人が雇い止め対象になっていた
無期雇用への転換を阻止するため、大学や研究機関の多数の任期付き研究者が契約更新を拒否された雇い止め問題。連載2回目では、全国でも規模の大きい雇い止めが行われた理化学研究所(理研、五神真理事長)の状況についてレポートする。多額の公的資金が投じられる大型プロジェクトのリーダーさえも、容赦なく雇い止めの対象になっていたことが分かった。
【雇い止めと日本の研究力②】
科学ジャーナリスト 須田桃子
研究代表者57人が雇い止め、の衝撃
理化学研究所は1917年にアドレナリンの発見などで知られる世界的な化学者、故高峰譲吉の提唱によって創設され、100年以上の伝統を誇る国内唯一の自然科学の総合研究所だ。2024年4月現在、約2800人の研究系職員が在籍し、学術論文の質の高さでも知られてきた。かつては研究系職員の9割弱が任期付きの有期雇用者で、10年、20年と契約を更新しながら在籍する人も珍しくはなかった。
しかし2022年の春、全体の1割強にあたる380人もの研究系職員が、23年4月の契約更新はしないという一方的な雇い止めの通告を受けた。380人のうち、203人は22年4月時点で勤続10年を迎える特例対象者で、残りの177人は特例対象者の離職に伴ってなくなる研究チームのメンバーだ。
理研は取材に対し、特例対象者203人のうち86人は、政府やファンディングエージェンシーが公募した競争的研究資金を23年度以降も受給することになっていたと明らかにした。そのうち57人は、自ら研究計画を立て資金を獲得した「研究代表者」だった。競争的研究資金を獲得していることは、研究者の実力を表す指標の一つとも考えられているだけに、これだけの数の研究代表者が雇い止めにあった事実は衝撃的だ。
理研のなりふり構わぬ雇い止めに対し、訴訟が起きたり、労使交渉が繰り広げられたりした(サムネイル写真/大量雇い止めの現状などについて記者会見する理化学研究所労働組合の金井保之執行委員長(右)ら=2023年5月18日の理研労ツイートより)。その結果、57人のうち4割は、再雇用される形で23年4月以降も理研での仕事を継続している。
理研は、理研を離れた研究者も別の研究機関に移るなどしており、57人はいずれも「(公的研究費を)継続して受給できている」と説明している。
だが、研究代表者が離職したり、雇用がいったん打ち切られることでリーダーの立場でなくなったりすれば、プロジェクトそのものの中止や縮小されるリスクが伴う。そのようなリスクにさらしてまで競争的研究費を獲得できるような実力がある研究者を雇い止めにした理研の当初の判断は適切だったのだろうか。研究者や識者からも疑問の声が上がる。
当時、雇い止めの対象になった研究代表者の1人が取材に応じた。