しがらみ多き小さな島の中で次々と行政の不正を追及する孤高のローカルメディア「屋久島ポスト」の活動に注目
あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。
きょうのおすすめはこちら。
屋久島ポストの調査報道
「屋久島ポスト」をご存じでしょうか。鹿児島県の離島、屋久島と口永良部島からなる人口11000人余りの屋久島町で活動するローカルメディアです。
「報道機関による監視の目が届かない」という危機感を抱いた市民たちが立ち上げ、屋久島町政をウオッチする報道を次々と発信しています。
これまでに報道されたニュースは、いずれも本格的な調査報道の手法を使った骨太のものばかり。
例えば「町長の交際費問題」では、町への情報公開請求で交際費の支出記録を入手。鹿児島県選出で自民党の重鎮、森山裕衆院議員に焼酎を次々と贈ったり、知人の社長などにも万年筆や伊勢海老などを送ったりしていることを明らかにしました。
報道の結果、毎年度100万円前後使われていた交際費が、2023年度には個人への贈答はなくなり、金額も15万円余りに抑えられました。
また、町の水道整備工事で国に補助金を申請する際に、うその「工事完成日」などを報告して補助金を受け取った問題の報道では、厚生労働省が補助金適正化法に違反しているとして、町に交付金約1500万円の返還を命令する事態となりました。
現在は町の幹部の責任を問う、住民訴訟が続いています。
このほかにも出張旅費の問題や…
町営牧場での町職員の過労死の問題など、町の側にとっては「痛いところを突かれる」問題を次々と忖度なく報じています。
「自治体を取材するならば、このポイントをチェックしろ」というものを全て取り上げているような勢いで、小さなメディアでよくぞここまでできるものだと驚嘆します。逆にいえば町にとっては非常に煙たい存在になっているのではないでしょうか。
共同代表を務める武田剛さんは朝日新聞の記者・カメラマンとして南極や北極、ヒマラヤなどの極地での取材や、アフガニスタンやイラクの紛争地を取材した筋金入り。退職後に屋久島に家族と移住し、現在は屋久島ポストでの調査報道に専念しておられます。
先日、直接お話を聞く機会があったのですが、やはり小さな町の中ではさまざまな妨害もあるとのこと。しかし決して折れず、退かず、まつろわず、報道に邁進している姿に感銘を受けました。
そんな屋久島ポストの活動が評価され、地域に根差した報道や情報発信などを続ける個人・団体を顕彰する「地域・民衆ジャーナリズム賞2024」を受賞しました。
「ハイパーローカルメディア」でなければ実現できない報道という形での市民への貢献、ぜひ今後も長く続けていっていただきたいと思います。(熊)