「90年の作品」が2017年製だった!モダンアートの人気作家の疑惑を暴いたガーディアン
あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。
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1990年代と表示されたダミアン・ハーストの作品は2017年に制作されていた
ダミアン・ハーストは、英国で台頭する「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBAs)」の代表として、日本でも人気の現代美術家です。2022年には国立新美術館で展示会も開催されました(タイトル画像左)。
その作品はひと目見たら忘れられないほどインパクトがあります。
サメの死体を巨大な水槽に閉じ込めた代表作『生者の心における死の物理的不可能性』をはじめとする動物のホルマリン漬け、ダイヤモンドで覆い尽くされた頭蓋骨、錠剤が並んだキャビネットなどなどーーショッキングな作品の数々は話題になり、また超高額で取引されています。
その行動も型破りです。2008年、彼は新作を自らサザビーズで競売にかけ、7050万ポンドの売上を達成し話題になりました。アーティストの新作はギャラリーを通して販売するのが慣例を破ったことは、議論を呼びました。
そして、今回またあらたなスキャンダルが発覚しました。
英国のガーディアンは、ハーストが1990年代の作品として香港、ニューヨーク、ミュンヘン、ロンドンのギャラリーで展示してきた作品のうち、少なくとも3つが2017年に制作されていることをスクープしたのです。
さすがガーディアンの調査報道だけあって、従業員の証言をはじめ、過去の作品やその経緯を調べ上げるなど取材が徹底しています。
一方、ハースト側は「表示しているのは制作した年ではなく、構想した年だ」と反論をしていますが、アート界の常識からも無理がある釈明のようです。
美術界にも調査報道の手法を持ち込むガーディアンをみていると、日本のジャーナリズムはまだまだ手をつけていない領域が少なくないとあらためて感じます(瀬)
The Guardian 2024/03/19