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「あなたが提示したその報酬で、あなたは生活していくことができるのか」…在野研究者が語る『おカネ』の話

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在野研究者として生きるということーお金についての真面目な話


大学や研究機関に所属しない在野研究者として活躍している人類学者、磯野真穂さんのブログが研究者や出版関係者の間で話題になっています。

前任校の契約が切れ、在野でやっていこうと考えたとき、私は次のような目標を立てた。
「研究者以外の仕事をせず、これまでと同じだけ稼ぐ」。

研究者のロールモデルのひとつになることを目指して磯野さんは在野の道を選びます。年収200万程度になるリスクも覚悟した決断でした。そして、数年で「同じだけ稼ぐ」という目標を達成したそうです。

では、どうしたのか。その選択と同時に、それが浮かび上がらせる環境や構造の問題をすばり明かしていきます。

そのひとつが非常勤講師の問題です。

月4回の授業にくわえて、その準備、学生対応、成績評価などを含め月3万円程度の収入しか得られない大学の非常勤講師をやらないほうがいい、自分の研究ができなくなるーー大学との関係をもちたいという人以外にとっては「搾取」の構造だと、断じます。

磯野さんはこうした既存のシステムの外側で仕事をすることの重要性を明かすと同時に、発注側、つまり出版社やイベント主催者などの問題を指摘します。

>弊社の媒体に1回1万字程度の連載をお願いします。報酬は1回1万円です。それを書籍化します。

>本を1冊読んで書評を書いてください。報酬は8千円でお願いします。

こうした事例を示しながら、「だから研究者にイベント開催とか、執筆とかの依頼をする仕事をしている人には考えてほしいのです」と訴えます。

この問題は研究者だけではなく、フリーランスのジャーナリストやノンフィクション作家を巡る環境とそっくりです。

たくさんの書籍が何万部、何十万部と売れる時代は終わり、従来型の印税に依存する仕組みだけでは書き手は生活ができなくなっています。

発注者側がリスクをとって変えていく努力をしない限り、この構造は変化しません。

「1人がやれることは限界があると思うけど、発信していることと、足元の世界を一致させようとする努力くらいは誰でもできるはず」という、磯野さんからの問いかけは、研究関係者だけではなくメディアやコンテンツづくりに関わる人にとってとても重いと思います。(瀬)